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コホンと咳払いを挟む。
「僕たちが日々口にする食べ物はね、ひとつ食べたらひとつの命を頂きました、じゃないんだよ」
皆がふんふんと聞いている。
「豚肉一切れだってチキン一本だって、食卓に並ぶにはたくさんの命の犠牲があった。病気も治してもらえずに食の安全のため殺される命。出荷されてもスーパーで売れ残って捨てられてしまう命。目の前に出された命はたったひとつでも、君たちの食べ物の裏には数え切れないほどの生物の命が隠れているんだ」
命なき卵にだってそうだよ、とエレン先生は言った。
「卵一個頂くには大勢のオスの命が犠牲になっているんだ。産まれたばかりのまだ可愛いヒヨコだよ。僕は子供の頃に地面で割ってしまった卵をすごく後悔している。割れた瞬間ゴミに見えてしまった自分を最低だと思──」
エレン先生の言葉が止まる。ひとりの児童が手を挙げたから。
「香織、どうしたの?」
「私、もう食べたくありません」
「え?」
「肉も卵も食べない。みんながそうすれば、命を無駄にせず過ごせるでしょう?」
君はなんて優しい心の持ち主なんだ、とエレン先生は両手を胸に置いて噛み締める。
「実際にそういう人もいるよ、だけどね」
人差し指が立った。
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