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はじめての手紙
私が学校についた頃にはもう、ちらほらと生徒が登校していた。
周りの生徒に変な目で見られないように気を付けながら、最大限の速足でここまできた私は、祈るように行内に入る。
頑張って急いだ、お願いだから泰斗君以外に見つかってませんように。
しかし、時すでに遅し。
いや、むしろちょうどよかったのか。
私が自分のクラスの下駄箱に行くと、泰斗君が靴を履き替えようとしているところだった。
しかし、彼の手には肝心の手紙がない。
「香苗、おはよ」
「お、おはよ」
私は泰斗君から話しかけてもらったことに一瞬舞い上がりそうになるが、今大事なのは手紙だ。
「じゃ、教室で」
そう言って立ち去ろうとする泰斗君を私は慌てて呼び止める。
「ねえ、泰斗君!」
「なんだ?」
不審げに振り返ってくる彼に、私はしどろもどろになりながら言う。
「あの……その、変わったこととかなかった? なにか、そのー、下駄箱になにか、そのー入っていたとか」
「何もなかったけど? 変なこと言うんだな」
じゃ、と手を挙げて、泰斗君が去っていく。
私はその場にへなへなと座り込んだ。
どういうことだろう。
泰斗君の表情から見て、本当に何でもないというような反応だった。
手紙のことを隠しているようにもみえない。
第一、泰斗君はそういうことを隠すような性格でもない。
私は泰斗君が先ほど靴を入れ替えていた下駄箱を見つめる。
そして違和感に気付く。
私が、昨日、入れたのって、ここの靴箱じゃなかったような……。
慌てて記憶をたどる。
そして、思い出す。
私は昨日、ここじゃなくて隣の、そうこの靴箱に手紙を……って私、入れる場所間違えた!?
間違えて入れた靴箱を確認するも、手紙はなし。
顔から一気に血の気が引いていくのを感じる。
私の手紙、どこに行っちゃったんだろう。
とぼとぼと自分の靴箱に戻る。
「えっ!?」
そこで私は『香苗様』と自分の名前が記された一通の手紙と出会ったのだった。
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