最終章 ー御霊送りの夜にー

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 ばっと、宙に舞っていた花弁が一斉に光を取り戻したのだ。不規則に揺らめきながら闇を照らすその光は、まるで花火が弾けた後の余韻のように心を締め付けてくる。  遠くで歓声が上がる。光は宙に漂い続ける。  まるで夢と現実の狭間にいる感覚の中、視界が少し滲む。しかし茜はかぶりを振ると宙から路地へと視線を戻した。あれほどまでに暗かった路地裏が今は色も形も見える。  「ありがとう、本当に。やっぱりそれは優しい力だよ」  ここにはいない誰かに向けて、茜は静かに感謝を零す。  恐らく、自分の連絡を見てくれていたのだろう。彼女の立場からすれば許されない行為であろうはずなのに、独断にせよ合意にせよ彼女に大きな借りが出来た。  茜は突然の出来事に高揚する群衆から距離を取るように路地を進んでいく。お陰様で進むべき道ははっきり見えた。後は見つけてあげるだけだ。  「ああ、本当に騒々しい一日だ」  苦笑すると同時、本当に多くの縁が自分の中に生まれている事に気付き嬉しくなる。たった一年でこれなのだから、来年には更に多くの縁が生まれているのだろう。  自分が恐らく茜壮士ではない。  ただ茜壮士である事は、こうして周囲が教えてくれる。例え自分が何者か分からなくとも、今はそれで充分だ。これからも自分はこうして生きていく。生きていける。  茜がそれを確信した所で、とある建物の屋根の下に誰かが座っているのが見えた。三角座りの格好をして顔は膝の中に隠れている。がその背中は小刻みに震えていた。  「・・・・・・お母さん、お父、さん」  見つけた。顔こそ分からないにせよ、服装も外見も聞いた通りだ。随分と心細かっただろうがよく見つかってくれた。茜はほっと胸をなで下ろし、ゆっくり少年へと近づいていく。  あの頃の自分よりかはまだ年上だろうか。お互い随分と遠い所まできたものだ。少年は茜の足音に気付いたようで、ようやく顔を上げてこちらを向いた。  「・・・・・・?」  潤んだ大きな瞳がこちらを射貫く。孤独と困惑が混じった純粋な瞳だ。少年は戸惑いも露わに「だれ・・・・・・?」と震える声で尋ねてくる。  「ああ、紹介が遅れたね」  だから茜はその場にしゃがみ込んで少年に笑いかける。  決して自分は敵ではないと。  かつての自分がそうして貰ったように、微笑みながら手を伸ばす。  「あたしは茜壮士。この地に住まう境界屋さ」  少年の真っ暗な目の中に、一筋の光が灯った。
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