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プロローグ
令和後期に起きた東京大崩落は、その後の世界のあり方を大きく変えた。
きっかけは、浅い震源地で起きた小さな地震だった。
およそ震度四にも満たない、小さな地震。しかしその地震は度重なる地下工事により脆弱になった東京の地盤を容赦なく砕いた。
崩落で東京都は渋谷区と新宿区の面積を喪失。
日本史上類を見ない被害をもたらしたその災害は、人々の記憶に大きな爪痕を残す事となる。
東京に大穴が空いたその日。
国中が悲しみにくれるその日に、人類はもう一つの衝撃に苛まれる事となる。
ーー街があったのだ。
地の果てまであろうかとばかりのその大穴の中に、幻想的な街が広がっていた。
その街は昼間であるにも関わらず夜のように薄暗く、満天の星空のように眩い。
建物はどこか懐かしく、どこか自分たちの文明とは隔絶している。
暮らす人々は我々のように見えて、我々とは明らかに違っていた。
きっと歴史の転換期というのはこういう事を指すのだろう。最初にその地に降り立った当時の境界探検家は興奮混じりにそう語ったらしい。未知とは宇宙の先にあると信じていた人類は、地の底でそれと出会う事となったのだ。
あれからはや十年。
悲しみが日常となり、悲劇が歴史となったこの場所は、今や人と地底で文明を育んでいた妖(あやかし)が交差する特異点となっていた。
その名は東京アンダーランド。
地上(このよ)とは違う地下(あのよ)の世界。
今日もこの街には、二つの世界が生きている。
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