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両手にガチャリと金属製の手錠がかけられた事で、今度こそ終わったと実感した。
違式に連れられて雲量閣の昇降機を待つ。最初に立てた目的は何一つ達成していないのにも関わらず、胸元に風が通り抜けるような心地よさを感じていた。
次にこの場所に来るのは、罪を償ってからだ。二年、三年、いやもっとかかるかもしれない。そう思うとこの独特な街並みが名残惜しくなった。
「ーー立花さん」
昇降機を背にアンダーランドの街を見ていると、茜がこちらに向け手を振っていた。
隣には雑賀もいる。立花は黙って彼らに向け会釈した。
「もう行っちまうのかい。寂しいねぇ」
「ああ、やった事の責任は取るつもりだ」
もう少し早く彼と出会っていればと思う一方で、この時に彼と出会えて良かったとも思う。何にせよ最後の一歩を踏み留まらせてくれたのは彼だ。
大丈夫。自分はもう大丈夫だ。これからも前を向いて生きていられる。
「行くぞ」
昇降機が音を立てて到着した。違式が低い声と共に立花を連れて行こうとする。
「・・・・・・また、今度来た時は」
これで本当にお別れだ。だから立花は何か考え込むようにその場に立ち止まる。
「その時は宝生卵飯を食べたいんだが、案内してくれるか?」
言った後、自分が微笑んでいる事に気付き驚いた。
「あいよ! また一緒に行こう」
茜の元気のいい声と共に昇降機の扉が開き、モニターには『ありがとう』と日本語が表示された。ありがとうはこちらの方だ。心の底から感謝していると昇降機の窓からアンダーランドの街並みが見えた。
みるみる内に目線は高くなっていき、やがて街全体の輪郭が露わになっていく。同じ景色でも降りる時と昇る時では印象が違う。景色では無く自分の心象が変化したからか、今は素直に綺麗だと思えた。
東京には、今日も二つの世界が生きている。
これほどまでに離れているのに、どこまでも近くて愛おしい。
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