第二章 ー移ろうは恋心ー

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    地上はいつもキラキラしている。  朝はお洒落に身を包んだ大勢の人間達が街へと繰り出す。  昼は頬がこぼれ落ちそうなほど美味しいご飯に舌鼓を打つ。  夕方には空が吸い込まれそうな黄金色に変わって、夜も眩い光に覆われている。  そもそもアンダーランドができるまでは、朝と昼と夜の概念すら無かったらしい。親からその話を聞いた私は「うええ」と苦虫を嚙み潰した表情をした。ちなみに地下にはその苦虫さえいないのは今は置いておく話。  とにかく地下はいつでもどこか薄暗い。  対して地上には、私が望むキラキラした世界があった。  ちなみに地下にいる私たちは、露天に買い物にいくような感覚で地上に行く事はできない。この十年で人間と私たちの関係は随分と改善されたらしいけれど、まだ彼らにとって私たちはお客様なのだ。地上に行くにはパスポートと呼ばれる特別な証明書が必要になっている。他にも長く滞在するとなると様々な申請が必要になっていたりと大変だ。  人間は何もしなくても地下に行けるのに、私たちはそうは出来ない。不公平だと思うけれど階段だって降りるのは楽だけれど昇るのは少し疲れるから、そういう事だと思う。  空、お星様、そして地上。  見上げるものはいつだってキラキラしていて、手が届き辛い。  でも、今の私は浮かれている。こうしてベッドに寝転がっているのに、心はステップを刻みながら弾むようにダンスをしている。頬も地上の美味しいものを食べたように緩んでいた。  その理由は、私が手に持っているスマートフォンにあった。  スマートフォン。数年前から地下に流通し始めた、キラキラした地上のキラキラした発明。この掌に収まりそうな小さな箱から私は世界の果てまで飛んでいく事ができる。地下で暮らすお年寄り達は「そんな人間のものなど」と嫌がる人もいるけれど、彼らはこの地下同様に視野が狭いのだ。地上に憧れている私とは、見えている景色も考え方も違うから無理は無い。  そうこうしている内に、私が浮かれている理由がやってきた。スマートフォンが小刻みに震えるや否や、私は目の色を変えてメッセージ画面を開く。  『こんばんは。丁度今学校終わったー』  絵文字を添えて送ってきた相手は櫻井くん。  マッチングアプリで出会った、地上の学校に通う高校生だ。
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