第二章 ー移ろうは恋心ー

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 この魔法の発明の凄い所は、遠くにいる誰かと繋がれる事だ。地下にいる時は出会った誰かとその場か文でしか話が出来なかったけれど、スマートフォンであればその縛りは無い。現に櫻井くんとも一度も顔を合わせた事が無いのに、こうして仲良く連絡を交わし続けている。  『お疲れ様!  地上の学校楽しそう』  『そんな事無いよ。部活に勉強に面倒くさい』  櫻井くんは、私が妖である事は知っている。知っているのに距離を取らずにこうして気軽に接してくれている。顔も鼻梁が通っていて奥二重で、目にするだけでどきりとしてしまう。  私は櫻井くんが好きだ。彼はいつも私に地上のキラキラした話をしてくれる。私が地上に興味を持ち始めたのも彼の影響が大きいだろう。部活の話、授業の話、渋谷の話。彼の語る日常は私にとっては童話を読んでいるように新鮮でワクワクした。  『あー、いつか地上に行きたいな』  躊躇いながらも自然とそう送っていた。私たちはお互いに東京に暮らしていて、距離もそれほど離れていない。それなのに私にとっては海の向こう側にいるかのように遠かった。  本当は今すぐ地上に駆け出したい。この鬱屈とした地下から飛び出して地上で暮らしたい。しかし堅物の親はきっとそれを認めないだろう。以前無断でパスポートを作ろうとした際にはそれこそ火花が出ているかのくらい怒られた。私はまだ私の妖生を自分で決められない。  『うん、来てくれたら案内するね。いつでも待ってるから』  だから我慢しようとしていたのに、そう返されたら決意が揺らいでしまう。  何とか地上に行く方法はないのだろうか。  私はベッドにもたれかかりながら宙を見上げる。  昇降機は全て監視されているからそれ以外の方法が望ましい。しかしアンダーランドの整備区以外は蜘蛛の巣のように複雑で自分一人では抜け出せないだろう。それに地上に行った所で無許可で出回る訳だから色々と対策が必要だ。おまけに今の私の立場なら尚更だ。  ガイドが必要だ。それも地下だけで無く地上にも精通したガイドが。  「・・・・・・そういえば」  そういえば噂を聞いた事がある。地上と地下を繋ぐ境界屋。その中でも始の境界屋と呼ばれる凄腕の境界屋を。地下を知り尽くした彼ならば何か抜け道を知っているはずだ。  名前は何だっけ。聞いた事はあるが忘れてしまった。一通り日本語は覚えたが人間の名前は相変わらず発音が独特で難しい。ああ、ようやく思い出した。確か。  茜壮士、さん。
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