39人が本棚に入れています
本棚に追加
「・・・・・・」
立花は恐怖を無理矢理押し止め、胸元から一枚の写真を取り出した。
それは、かつて渋谷だった場所の一枚だ。写真には馴染みのある場所が映っている。
人が意図を持ったかのように行き交いする交差点。
流行のアーティストのMVが流れる大型モニター。
ビル中に張り巡らされた大小様々な広告の数々。
そんな活気に満ちた街の中で、無邪気に笑う制服を着た一人の女子高生。
「・・・・・・有、香」
恐らく、この場所なのだ。
境界中央駅は、名の通り崩落の中心地に建てられた。その中心地は新宿駅。つまり写真の場所となる。立花が今立っているこの場所こそ、かつて新宿だった場所なのだ。
ーーこの場所で、娘は。
立花は震える手で写真を視界から外し、再びホームから街を見る。
だが眼下に広がるのは、写真の日常からは遠く離れた異界の風景だけだった。
「・・・・・・」
ずっと嘘だと思っていた。
あまりに荒唐無稽な事実だったので、TVのニュースかスマートフォンの向こうだけの話だと思っていた。しかし現実はどうしようもないほど立花の目の前に広がっている。
ようやく立花は、娘の不在が永遠のものだと思い知らされた。
「・・・・・・父さん、ようやくここに来たよ」
声と共に視界が滲んだので、立花は目元を強引に拭った。
最初のコメントを投稿しよう!