第一章 ーふたつの爪跡ー

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   「・・・・・・」  立花は恐怖を無理矢理押し止め、胸元から一枚の写真を取り出した。  それは、かつて渋谷だった場所の一枚だ。写真には馴染みのある場所が映っている。  人が意図を持ったかのように行き交いする交差点。  流行のアーティストのMVが流れる大型モニター。  ビル中に張り巡らされた大小様々な広告の数々。  そんな活気に満ちた街の中で、無邪気に笑う制服を着た一人の女子高生。  「・・・・・・有、香」  恐らく、この場所なのだ。  境界中央駅は、名の通り崩落の中心地に建てられた。その中心地は新宿駅。つまり写真の場所となる。立花が今立っているこの場所こそ、かつて新宿だった場所なのだ。  ーーこの場所で、娘は。  立花は震える手で写真を視界から外し、再びホームから街を見る。  だが眼下に広がるのは、写真の日常からは遠く離れた異界の風景だけだった。  「・・・・・・」  ずっと嘘だと思っていた。  あまりに荒唐無稽な事実だったので、TVのニュースかスマートフォンの向こうだけの話だと思っていた。しかし現実はどうしようもないほど立花の目の前に広がっている。  ようやく立花は、娘の不在が永遠のものだと思い知らされた。  「・・・・・・父さん、ようやくここに来たよ」  声と共に視界が滲んだので、立花は目元を強引に拭った。
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