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「あー、結局誘えなかった――!」
自室のベッドに倒れ込んで蒼は悲嘆に暮れていた。なんであんなタイミングで駅に着くんだ、神様の嫌がらせか、などとしばらくわんわん唸っていたが、ふと思い直して、
「いや、よく考えたら、もしあの状況でお誘いの提案ができたとしても、万が一相手が、『え、なんで?』みたいな反応してきていたら、何て返していたんだろう。結局上手いこじつけも思いつかなかったし、むしろ今回言いそびれたのは、案外良かったのかもしれないな」
そう考えると、蒼は急に元気が湧いてきて、その都合の良いこじつけを目をつぶって考え出そうとするが、妙な眠気が襲ってきただけで、何のアイデアも出なかった。
「ちくしょー、全然思いつかねえ。女性を遊びに誘う文句っていったい何なんだ! 俺ってこういう問題にはめっぽう弱いよなあ」
翔は口軽そうだし、牧野さんは晴夏の内通者だし、他に相談できる友達もいないし……。ほとほと自分の交友関係の狭さと女性経験のなさに呆れ果てた。
「こんな調子じゃ、告白なんて夢のまた夢……」
はああ……と今自分がしていた枕をギューッと抱きしめ、嘆きの底に沈みかけた時、むくりと体を起こして、
「こうなったら、また頼るか」
と、スマホをカバンから取り出し、すぐさまラインのアプリを開いた。そして30人弱の「ともだち」の中から目的のその人を探して、トーク画面を開く。その人の名は、
『恋愛マスターkei』
「ひとこと」の欄には、「女性から見た恋愛テク!完全相談無料!」と書いてある。名前からして完全に胡散臭そうな感じがするが、少し前に蒼は何気なくツイッターを見ていてこのkeiなる人物を発見し、その時もちょうど晴夏へのアプローチが失敗した時で心を痛めていたので、破れかぶれな気持ちで連絡してみたのだ。するとラインのIDが送られてきて、とりあえず相談してみると、意外にもちゃんとしたもので、まず女性は清潔感のある男性に好印象を抱くので、身だしなみをきちんとすること。例えば、初めは髪の毛をちゃんと整えたり、比較的明るめの服を着たりする。結構当たり前のことなのだが、女性に不慣れで、自分に自信のない人は、まずこういうことを怠っていることが多いそうだ。オシャレを軽く見ている、確かにそんな傾向が蒼にもあって、この話を聞くまで服など着られればなんでもいいというくらいの意識だった。
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