【プロローグ】

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 名にめでて折れる許りぞ女郎花  我おちにきと人にかたるな  僧正遍昭  約束、それは期待。  約束、それは疑念。  約束、それは束縛(そくばく)。  影も形もないそのものに縛られるありさまはまさに滑稽(こっけい)で、人間味を帯びた(あわ)い感情がなんとも美しい。  他人なんて完全に理解することはできない。まして自分の思いどおりにしようなんてもってのほか。  私はもっと知りたい。あなたに伝えたい言葉があるから。  俺はもっと知りたかった。なぜ君がたった一度も“好き”と言わなかったのか。  いまさらのように言葉を連ねても意味はない。夏のあの日が運命の分かれ道だった。  汗が滲むシャツをあおいで、窓際で涼んでいる彼を忘れはしない。  風でなびく髪をかきあげ、読書に(いそ)しんでいる彼女を忘れたくない。  天気のようにコロコロと模様を変える“心”は可視化された表面世界をいき交っているにしかすぎない。  その“真心(まごころ)”はもっと……もっと深い場所で(くすぶ)っている。  約束、それは未練。
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