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努力の甲斐があってか、日中の妻は随分顔色が良くなり、笑顔を見せるようにもなった。
しかし夜が訪れると、やはり玄関に向かっては、座り込んで扉を指差す。
「……見える?」
そんな生活が続いたある日、驚くべきことが起こった。
「……見える」
本当に、見えてしまったのだ。
曇り硝子に映る、長い髪の女性の姿が。
恐ろしさのあまり、わなわなと身体中が震えだした。
妻の言うことは本当だった。ノイローゼなんかではなかったのだ。
彼女はずっと、毎晩こんな恐怖に怯えていたというのか。
「み、見えるよ。ずっと立ってる。おい、どうするか……ああ、」
その時、隣の妻がくすりと笑った。
今まで見たこともないような、とびきりの笑顔だった。
「え?何も見えないけど」
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