淡彩

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淡彩

フェンス沿いの路肩に車が止まって、未来(みき)はガードレールを気にしながら、助手席のドアを開けた。 運動場でサッカーをしている子どもたちの声が、風に乗って聞こえてくる。 ガードレールの切れ目を探して左右を見渡してから、1番近い所まで歩いて行って歩道に入ると、ガードレールを難無く跨いでいる青島が見えた。 つき合い始めて半年、巡ってくる季節の全てが特別な意味を持っている気がして、くすぐったいような気持になる。 そして青島が、ゴールデンウィークに二人で過ごす場所として偶然にも選んだのは、未来(みき)が子どもの頃を過ごした土地だった。 「今からだと、泊まるとこ見つけるの大変かもしれませんね。」 騒動の後、連休を前にした忙しい時間の合間に、ゴールデンウィークの話を青島に切り出されて、未来はそう答えた。 「実は一緒に視察に行けないと分かった時に、もう予約は入れてあるんだ。」 「えっ?予約って、まさかオーベルジュですか?」 「あのタイミングでもギリギリだったけどな。まさかお前に所縁があるとこなんて、思いもしなかったし。でもまあ、嫌ならキャンセルする。」 青島の気遣いを感じながら、未来は首を振って、私も一緒に行きたいと笑った。 「私が入学する頃に建て替えられて、真新しい校舎だったのに、すっかり古くなっちゃってる。」 あの頃は、気に留めたことなどなかったフェンスは、今こうしていると、もう戻ることはできないと教えてくれているようだ。 フェンスの並ぶ先に正門はあって、いつも真っ先に迎えてくれた桜の木は、もう葉っぱばかりになっていた。 ひとつ学年が上がる度にクラス替えで緊張していた新学期は、満開の桜を見たら楽しみに変わったことを思い出す。 「彼も…、宮下さんも小学生の頃からサッカーをやっていたそうだな。人気があったんだろうな。」 未来の視線の先に何を思ったのか、独り言のように話す青島に、フェンスの向こうを見つめていた未来は、校舎の3階辺りを指差した。 「あのへんで、よくみんなとサッカー部の練習を見てました。宮下君はクラスのリーダーで、男子からも慕われていたけど、女子からも1番人気があったと思います。」 走り回る子どもたちに思い出を重ねるように、目を細めて未来は話し始めた。 「6年生の時、同じ委員会になったんです。それまでは友だちにつられて騒いでいただけだったんですけど…。」 子どもの頃の話とはいえ、その時の気持ちを言葉にすることは躊躇われて話は途切れたが、青島は黙ったまま聞いていた。
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