淡彩

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実家だけはごめんなさいと言っていた未来だったが、サッカーの強豪校だという母校に向かっている途中の町で、この辺りが実家のある所です、と遠くを眺めてボソッと言った。 カーナビの目的地まで、まだ1時間はある所で、通学の苦労を思うと、改めて複雑な気持ちになった。 「通うのは、大変だったんじゃないのか?」 青島の質問に、未来は全然と答えた。 「本当は寮に入りたかったんです。でも、スポーツ留学で県外から来ている子も多くて、無理でした。でも朝は必ず座れるから、読書したりして快適でしたよ。」 話すトーンは明るくて、取り繕っているようには聞こえなかったが、見慣れているはずの景色を見つめるその表情は窺い知れない。 しかし目的地に近づくにつれて、明らかに嬉しそうな表情になって、辺りを見回し始めた。 「高校の最寄駅はここで、この辺のファストフードは良く行ってました。」 「ああ懐かしい。綾香(あやか)と、たまに行ったアーケード。」 楽しそうに話す未来の声を聞きながら、青島は宮下から聞いた話の辻褄を合わせていた。 「テスト期間中は、基本的に部活は休みになるんです。それでも18時までは高校の図書館が利用出来るから、勉強してる奴も多い。」 「俺は寮なんで普段、駅まで行くことはなかったんですけど、たまたま友だちと近くのファストフードに行って帰り、中西が近くの男子校の生徒に絡まれているのを見かけて…。」 20時を過ぎていたこともあって、半ば問い詰めるように話を聞くと、家に帰りたくないと言ったという。 未来の家庭の事情を知っていた宮下は、それからテスト期間中は一緒に勉強をして、駅まで送って行くのが当たり前になっていたと言った。 「噂にならなかったのか?いや、そもそも本当に友達として?」 青島の問いに、宮下は鼻で笑った。 「ならなかったんです。騒いでたのは中西と仲が良かった…知ってますよね?佐々木。逆にあいつと噂になったくらいで。でも部活は恋愛禁止だったし、幼馴染だと周りは知ってて、品行方正な二人は…少なくとも中西も周りも仲間だと思っていた。」 宮下の表情に、いつかの自分に似た呵責のようなものを感じて、青島は思わず 「君は…。」 と口走ってしまい、それを聞いた宮下はドンッとカウンターを叩いた。 「だいたいいつも劇的なんだ。突然いなくなったと思ったら、突然目の前に現れる。そのたんびに綺麗になってて。だから憧れのまま、いつまでも手が届かない。」 心の底にしまっていたであろう気持ちを吐き出した宮下は、グラスに残っていた酒を飲み干すと、幾分すっきりした顔になった。 「でも、もう一度会って話が出来て、良かったと思ってます。俺だけじゃない、中西にも悔いが残ってて、同じ気持ちでいたんだと知ることが出来ただけでも、救われた。」 皮肉なことに、宮下がすっきりしたのと引き換えに、二人の間につい最近まで、悔いという感情が残っていたことを知って、青島にはそれが小骨のように刺さった。
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