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大きなグラウンドの向こうに校舎が見えて、カーナビが目的地周辺だと告げる。
青島は車が止められそうな所を探しながら、銀行の横にコインパーキングを見つけると、迷わず車を入れた。
「この間、宮下さんと話をして、俺もお前の思い出を覗いてみたいと思ってな。」
青島に言われて、未来は思い出したように尋ねた。
「そう言えばその話、ちゃんと聞いてませんでしたね。どんな話をしたんですか?」
どことなくお互い探り合うような雰囲気になったのだが、青島はとりあえず歩こう言って、車から降りた。
「スポーツの強豪校だから、もっと大きいのかと思ってたよ。」
「別にグラウンドがあるんです。みんなはランニング代わりに走って、マネージャーと当番の部員は、荷物を持って歩いて行ってました。」
「女子の方にもマネージャーはいるんだろう。どうして男子だったんだ?」
その質問に他意がないことを理解しながら、未来は自分の言葉をひとつひとつ確認するように答えた。
「異性の方が遠慮があるから。仲間意識は強いけど、必要以上に踏み込まない。女同士さらけ出す勇気もなかったし、嘘をつくこともしたくなかった。」
「宮下さんだけは、そんなお前を知っていた。」
未来は否定も肯定もせず青島の顔を見て、少しだけ笑った。
「きっかけはどうあれ、マネージャーはやり甲斐あったし、高校生活も楽しかった。いい思い出です。」
「お前を見ていれば、それは分かる。」
「未来…、もうひとつだけ聞きたいことがある。お前と宮下さんが、この場所に残していた悔いって何だ?」
青島は、自分の琴線に触れるものは何ひとつないその場所に、嫉妬のような感情を抱きながら、少しでも近づこうとみっともなく足掻く。
未来はそんな青島を、ただ驚いて見つめた。
「てっきり、宮下君から聞いているものだとばかり…、でも宮下君からしたら話したくないことですよね。」
そう言って、未来はサッカー部に伝わるバレンタインの伝統を話し始めた。
圧倒的に男子が多いので、思いっきり義理の大袋チョコを『ファイト』と言いながら、手のひらに載せていく。
「3年生のバレンタイン前に、伝統かもしれないけど義理はいらないって言われました。根っからのキャプテンに真剣な目でそんなこと言われたら、私でもその意味は分かります。」
「友達を失ったショックが大きくて、ごめんなさいとありがとうを伝えられなかったのが私の悔いで、それを言わせないようにしたのが宮下君の悔いです。」
その時も今と同じ顔をしていたのだろうか、と未来を見つめながら青島は思った。
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