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ミーティング
階段を、やや早足でかけあがる。
今日は部のミーティング日なので、なおさら遅れるわけにはいかない。
部長会議で話したことを、部員に伝える日だ――。
活動開始の七分前。二階にあがると、美術室の前にはもう誰かがいた。中島だ。後ろ髪のはね方や大きな体ですぐわかる。
それに現在、部室を開け閉めする役を担っているのは、部長の自分と、副部長の彼だけ。
「中島くん。ごめん」
鍵を取り出している中島を見て、千影はつい謝った。
「なに慌ててんの。まだ皆あつまっていないのに」
中島が鍵を差して回した。
引き戸を開けると、画材と埃の匂いが部屋からあふれ出す。不思議と落ちつく匂いだが、換気はしたくなる。
千影は雨が振り込まない程度に、窓を開けた。
「珍しいね」
中島はキャンバス前の椅子に座り、ひと息ついている。
「萩原が、俺より遅いなんて」
「……すこしね」
千影はうしろめたい気持ちになった。日下部と話していなければ、もっといつもどおりに来られたから。
「クラスの子と話していたの。中島くん、日下部くんって覚えている? 同じ中学校だったんだよね」
中島の片眉が、かすかにあがった。
「日下部って名字、そうかぶらないよな。……萩原、あいつと話していたの」
「え、うん」
「それで遅くなった?」
「……ごめん。気をつけるよ」
時計の針は、部活動の開始五分前を示している。
「いいんだけど」
中島がだるそうに、はねた後ろ髪を触っていた。
千影は引っかかりを覚えたが、先にミーティングの準備を進めることにした。
ホワイトボードに議題を書いていると、一年生たちが来た。部員が集まったので、椅子を円形に並べて、ミーティングを開始した。
千影は、外から聴こえてくる吹奏楽の音に負けないよう、凛とした声を出した。
「本日のミーティングでは、美術部の、学校への貢献内容を決めます。わたしたちの高校は常に『一丸となって学校を盛りあげていこう』という方針で――美術部も、この教えに従っています。貢献といっても、そう難しいものではありません。去年までの例をあげると、体育祭や文化祭の入場門の制作……」
事前に考えていた内容を、つらつらと話す。
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