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後半に入り、各選手に疲れが生じてきた。全員の動きが緩慢になってきたところで、相手校の交代選手が意地を見せる。突き刺さるような一点が入り、同点となった。
千影は残り時間を確認した。あと十五分もある。向こうがシュートを決めたら、きっと逆転は厳しい。PK戦も避けたい。なら、残り時間で点を入れてもらうしかない。
フィールドに声援を送る。肌と喉が痛くなってきた。スタンド席では、マネージャーらしき女生徒が、祈るような姿勢を取っている。のんびり観戦していた保護者たちも、食い入るように試合を見つめている。ボールは競り合い、宙に浮いた。相手校が取る。背番号1のキーパーの顔に、焦りが見えた。
千影はフィールドの奥で、交代の準備をしている選手がいると気づいた。弾かれるようにフェンスから離れ、スタンド席へと急ぐ。残り時間十分強。
日向から建物へ入る。ローファーが響く。物影の涼しさが心地いい。
急がないと。日下部を見ておかないと。
……どうして好きになったか、今日ならよくわかる。
自分にない明るさ、ふたりきりのときの穏やかさ、それも魅力的だ。
だけれど、木陰で泣いていたのを見て、気になりはじめた。
泣くほど打ち込んでいるものがある。その姿に、どうしようもなく惹かれたのだ。
薄暗い通路をとおってスタンド席に出ると、太陽がよりまぶしく感じられた。
出入口から左側が自校の応援席。前列は席が埋まっている。千影が後方へあがると、ちょうど選手交代が行われていた。
一番と十二番の交代。……ゴールキーパーの交代は、PK戦を見越しての采配かもと、前列で囁かれている。
ひざは、短時間、試合に出られるほどによくなったのか。交代した今、どんなプレッシャーを抱えているのだろうか。
「……がんばれ」
日下部の背中に向かって、ひとしれず呟いた。
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