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最後の花火の骨が風に散ったあと、翔平は舞華を最寄り駅まで送った。
黒い景色が無数に過ぎ、駅に着く。
客たちはぱらぱらと階段を上がり消えてゆく。
カランコロン。
舞華の足音に、翔平も合わせる。長くて短い階段を上りきり、改札はもうすぐそこに並んでいた。
「ごきげんよう」
鈴の声で、舞華は深々と頭を下げた。
そして黒い出目金とともに、改札を通っていく。
彼女は金魚を高めに持ち、見上げるかたちで出口へと消えていった。
なんて返したらいいのかわからないまま、背中を見送った。
次の電車の案内放送が流れた。
翔平は左手に引っ掛けていた赤い金魚をよく見た。腹の下まで、全身真っ赤だ。
その鱗に、まだ花火のかけらがちらついている。
カランコロンと歩く彼女の下駄の音が、まだ耳の奥に残っていた。
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