花火の死骸

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 黒地にピンクの花柄の浴衣の女の子が、拓馬の前に現れた。  予想通り、ふくよかだ。しかしその体は不健康な様子はなく、むしろ幸せが詰まった印象を受けた。  彼女は早口に拓馬に話しかけると、こちらに手を振ってきた。慌てて会釈する。   そのとき、ふくよかな彼女の端に、水色の浴衣の女の子が見えた。というのも、この大きな彼女の後ろにいるその子は、こちらからほとんど見えなかったのだ。  小柄というほどでもないが、その女の子は親友にすっぽりと隠れきっていた。  小柄な彼女は一瞬で男2人に会釈をすると、再びふくよかな彼女の後ろに隠れてしまった。 「それじゃ、行こうか」  拓馬の一声に、一同が歩き出す。  翔平は自分の立ち位置に混乱した。 数年間自分の居場所だった拓馬の隣は、ふくよかな彼女のものだ。もちろんその彼女は、満面の笑みで簪の飾りを揺らし、しかるべき場所を歩いている。  その斜め後ろには、親友の浴衣の振りを掴んで離さない小柄の彼女が歩いていた。 彼女の気持ちはそれなりにわかる気がした。彼女もきっと、自分のポジションに困っている。しかし親友の邪魔はしたくなければ、初対面の男とも近づきたくない。  初対面の彼女と近づきたいと思う気持ちだけが、彼女の心と違うだけのような気がした。  拓馬が先頭を切って歩くその道は、いつの間にか屋台の灯りであふれていた。  射的の外れる音、揚げたじゃがバターの匂い、りんご飴で 口の周りをべたべたにした幼女―― 今夜の期待と居心地悪さも含めて、夏だった。 「あれ食べようよ」 丸々とした白い指で、拓馬の彼女はたこ焼きを指した。「私、パパにお小遣いもらったから、みんなも食べない?」とも。   じゃあみんなで食べようか。そう言った拓馬と目が合った。 彼女たちのお小遣いが我らの家の収入くらいあったとしても、今日の買い物はすべて自分たち財布から出すと決めていた。お祭りでかっこつけるくらいの金は稼いでいるつもりだ。 翔平と拓馬は8個入りのたこ焼きをそれぞれ買い、出店のはずれの花壇に腰かけた。 拓馬の彼女は、迷うことなく拓馬の持つたこ焼きに飛びついた。小柄な女の子は、困った様子で親友を、そしてあらぬ方を見た。自分から食べに来ることはしないつもりのようだ。 「あの、よかったら、一緒に食べませんか。箸はちゃんと2つ持ってきたので」  やっと出た言葉は、群衆の足音で消えてしまったのかもしれない。  もう一度言おうか、そう思うくらいの間があって、小柄な彼女は箸に手を伸ばし、割った。その音もほとんどしない。  
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