花火の死骸

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 驚くほどに、舞華は金魚すくいが下手だった。 「自分で出します」とはっきり言った舞華の財布の千円札は、あっという間に粉々になった。 翔平は1匹、細身の赤い金魚を捕まえていた。金魚すくい王道の金魚だ。赤くてかわいい。もう1匹取れそうなところにいる金魚がいないかを探していると、舞華が隣にしゃがんだ。もうあきらめたらしい。  しかし、彼女の方を見ることができなかった。彼女は、まだポイの破けていない自分をどんな目で見ているのだろうか。純粋に応援しているのだろうか、それともボウルに入ったこの金魚を欲しているのか 、はたまたもう一匹取ることを期待しているのだろうか。  斜めに構えたポイの端から、雫が垂れた。金魚らが何食わぬ顔で散る。 今だ。  黒い出目金が、水面に上がってきた。   口角の下がった口が大きく開いて、翔平のボウルに2匹目の金魚が入る。 「やりましたね!」 そう手を叩く彼女は、とにかく美しかった。「美」として完成されていた。「美しい」という言葉よりも「美しい」という意味の言葉を知っていれば、どんなに幸福であっただろうか。 翔平は、袋に入れられる金魚をまだ手を叩いて見守る舞華の背を、眺めていた。  さりげなく1匹ずつ入れた袋を両手に、店主のおやじがお嬢ちゃんはどっちの子が好きかと聞いている。 「私、出目金ちゃんがいいです」 おうよ、と店主は手をクロスして、舞華と翔平に金魚を渡した。せわしなくビニールをつつく赤い金魚に、店の灯りがまぶしい。  同じように、舞華も自分の手にある出目金をうっとりと眺めている。 その時、ひゅうと夜の闇をきる音がした。パン、とはじけ、オレンジの花火が夜にゆれる。 「花火、始まりましたね」 ふらりと花火の方向へ向かい始める舞華を追った。追いついて、並んで歩いた。
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