花火の死骸

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高校最後の花火大会は、こいつと行きたかったのかもしれない。そう自覚した時には、すでに時が進んでいた。  本気で何とかしようとすれば、まだ間に合うのかもしれない。  しかし、こいつの幸せを見たくて、簡単な言葉しか口に出せなかった。 「お前、明日の花火大会いく?」 アイスクリーム屋のバイトが終わり、ショッピングモール前の坂道を下りきったところで、拓馬が聞いてきた。 明日催される花火大会とは、この地域で開催される一番大きなもので、少し遠くからわざわざ来る人も多い。それなりに規模の大きいものだ。  明日は土曜日。シフトが14時までだから、余裕で行ける。  翔平は「もちろん」と答えようとして、やめた。なんだか嫌な予感がしたからだ。 偏差値も民度も低い男子校に入学して2年、見た目のわりにおとなしい性格の拓馬とは、自然と一緒にいることが多かった。  去年と一昨年の花火大会はもちろん、放課後のカラオケや冬休みにテーマパークへ行く数人のグループにも、必ず拓馬がいた。  毎度、誘ってくるのは拓馬だった。いつもワクワクがとまらないといったオーラを放って誘ってくる拓馬。  だが今日はなんだかいつもと様子が違う。今回は、誘われていない。そんな気がして、「どうして?」と聞いた。   「実はな」  いったんそこで切ると、拓馬はかなり小さめの石ころを蹴とばした。蹴とばすには小さすぎるその石は、前をあるくお婆さんの靴の中に入った。誰も、何も言わない。 「俺、彼女ができたんだわ。んで、明日の花火大会にその子と2人で行くことになってるんだわ。だから今年はお前と行けないや」  ものすごく率直で、正しくて、理想的な答えが返ってきた。驚きと寂しさがまず先に、そして少し遅れて祝福の気持ちが混じる。一番大事な言葉をかけるのに、四歩かかった。 「おめでとう。いつできたの?」 「ちょうど一週間前」 「おぉ」  耳を真っ赤にしたまま、拓馬はうつむいた。きっと、自分からは何も話さない。いや話したくても話せない。だからこちらから聞くことにした。
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