自覚

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 夏休みが終わりに差し掛かったこの日、わたしたちは駅近くのカフェで待ち合わせをした。今日は感想会でも本の貸し借りでもなく、互いに終わらせていなかった宿題を片付けるためだ。 「詩乃ちゃんって計画的に宿題終わらせるタイプじゃなかったんだね。ぼくと一緒だ」 「違います。ほら、しゃべってないで手を動かしてください。全然進んでないじゃないですか」  宿題出したこと一回もないんだよね、と聞いたときは本当に驚いた。今まで先生や親に叱られたことはないのだろうか?  さすがに受験生でそれはまずいのでは、とわたしが言ったら、詩乃ちゃんと一緒ならやるよ、と言うのでこうして顔を突き合せている。  シャーペンを滑らせる。本当は、いつもだったらこの時期にはとっくに宿題なんか終わらせて、二学期の予習をしていた。  今年そうならなかったのは、と、垂れ落ちてくる前髪の隙間から、向かいの席に座る人物を見る。うんうん唸っていた五十嵐さんがちらりとこちらを見る気配がしたので、わたしは慌てて視線を下げた。  そのとき。  すっと伸びてきた腕が、わたしの前髪を掬った。  一気に明るくなった視界の中心で、五十嵐さんはにこにこ笑っている。 「え、あの、五十嵐さん……!?」 「前髪、切ったほうがいいよ。目、悪くなるから」  五十嵐さんの手が離れていくと、前髪は再びわたしの額を覆った。 「え、ええ……そう、します」  冷房が止まってしまったかのように身体中が熱い。胸が苦しいほどに高鳴っている。なんとも思っていない人にこうされたって、こんなことにはならないはずだ。  五十嵐さんがわたしをどう思っているのかは分からない。  けどわたしは、五十嵐さんのことが好きなのだ。  さすがに、そう認めざるを得なかった。
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