映画館にて

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映画館にて

 日曜日のショッピングモールはとても人が多い。交錯する視線を避けるようにうつむきながら歩いていると、ため息が自然にこぼれ落ちる。  本当は来たくなかったけど、兄の頼みだから仕方がない。イヤホンの充電を忘れたために、割れるような騒音が後頭部にまっすぐ突き刺さる。  泣きわめく子どもとそれを怒鳴りつける親の脇をすり抜け、エスカレーターに乗る。  目的地は四階の映画館だ。  ポップコーンの匂いがする映画館のフロアは、思っていたよりも空いていた。わたしはほっとして券売機の隣にある売店へ向かった。  スマホを取り出し、兄に頼まれた映画のタイトルを確認する。 「ザ・シティ……」  兄はこの映画のパンフレットが欲しいらしい。自分で買いに行けばと言ったら「あそこの売店のバイト辞めたから行きづらい」なんて言うのだ。妹を気安く使わないでほしい。  パンフレットを購入できたことを兄に伝えるため壁際に寄り、スマホを取り出す。いつもは既読スルーのくせに、こういうときはちゃんと返事をよこす調子のよさに呆れる。  スマホを鞄にしまい視線を上げると、壁に貼られたポスターが目に入った。中央に堂々と描かれた、ムキムキの四肢が生えた鮫をなんとなく眺める。 「うわっ、なにこれ」  背後から聞こえてきた声に、心臓が跳ね上がった。ピンク色のマニキュアを塗った綺麗な指先がぬっと伸びてきて、わたしの目の前のポスターを指す。 「こんなの誰が見るんだろうねー」 「ねー」  振り返るのが恐ろしくて、わたしは立ちすくんだまま息を潜めた。無邪気な笑い声が遠ざかっても、動悸はなかなか収まらない。  もう帰ろう。  そう思いポスターに背を向けたとき、すぐ目の前に人が立っていた。  驚きすぎて声が出ないわたしへ、その人はにっこり笑いかけた。 「ね、きみ。これ、一緒に観ようよ」  チケットをこちらへ差し出すその人物を、わたしはまじまじと見上げてしまった。  肩先で跳ねるやわらかそうなくせ毛。薄い青地に黄色いドットのシャツ。ポップコーンとドリンクを抱えたその人がわずかに小首をかしげた。 「ぼくのこと覚えてるよね? 一昨日会ったもん」
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