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「え?」
「ぼくはね、人の気持ちを察するのがあんまり得意じゃないんだ。だからよく女の子を怒らせて、傷つけちゃうんだけど」
頷いていいものか分からず、わたしはカップに口をつけた。カフェオレは少しぬるくなっている。
「人間の気持ちって、難しいよね」
そうつぶやく声がどことなくさみしそうに聞こえて、胸の内にとどめておくつもりだった言葉を、つい言ってしまった。
「あの……、ほんとは、違うところで泣いたんです……」
指先が震える。カップを置く音がいやに大きく響いた気がしてわたしは周囲を窺った。周りの人たちはこちらのことなど気にもしていない様子で、それぞれ楽しそうに話をしたり、一人で読書をしたり、二人でいるのに一人でスマホに夢中になったりしている。
カップを両手で握ると、ほのかな温かさがじんわり伝わってくる。
「雨に濡れた主人公が帰ったとき、灯りを点けて待っててくれる人がいて……ああいうの、いいなあって……」
言ってしまった。恥ずかしさと後悔でわたしは顔を上げられなかった。
やっぱり言うべきじゃなかったかもしれない……。
「そうなんだ」
思いがけない優しい声音に思わず顔を上げる。
先輩は、笑っていた。
「……おかしいって思いませんか?」
「同じ映画観たからって同じ感想になるほうがおかしいよ。現にほら、ぼくと望月さんで全然違うふうに思ったじゃない」
そんなふうに言ってくれた人は、今までいなかった。
「わたし……わたしも、自分の感性を笑われなかったの、初めてで……よく、おかしいって言われて、その……」
うまく話すことができない自分に嫌気が差す。それでも先輩はわたしを急かすことなく待っていてくれたから、ようやく適切な言葉を見つけることができた。
「また一緒に……観ませんか。映画」
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