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自覚
それからわたしたちは何度か一緒に映画を観に行った。
わたしたちの感想はほとんど交わることはなかったけれど、わたしの感性をおかしいと断じず、そうなんだ、と受け入れてくれる。誰かと語るのがこんなに楽しいなんて初めて知った。
先輩は感動映画を「犬が火事で死ぬやつ」と言ってみたり、かと思えば冷めた目線で登場人物の常識外れの言動を批判したりと、わたしにない発想をぽんぽん打ち出してくる。
この作品を見たら先輩はなんて言うだろう、と思い始めてから、わたしは自分の小説や漫画を貸すようになった。借りるばかりじゃ悪いから、と先輩も自分の小説を貸してくれるようになったので、自然と会う回数は増えていった。
夏休みに入ってからも、わたしたちはたびたび待ち合わせては感想を言い合い、お互いの本をやりとりした。
「今まで漫画って読まなかったけど、おもしろいんだね。きみが貸してくれなかったら知らなかったよ」
なんて言われた日は、その言葉を何度も何度も反芻して、眠れない夜を過ごした。
「ぼくの見た目が気に入って近づいてきた女の子たちは、中身を知るとすぐいなくなったけど。詩乃ちゃん、きみは変わってるね」
「そんな変わったわたしと、行動してる五十嵐さんこそ……変わってると、思います」
「同じ人間はいないだろ? だからほんとは変わった人間なんていないのさ」
「さっきと言ってること、違いますけど……」
そのうち互いの呼び名が変わった。さすがに馨くんと呼ぶのは無理だ。
少しは仲良くなってきてる……と思うのだけど、どうなのだろうか。
五十嵐さんはわたしをどう思っているのだろう。
わたしは五十嵐さんをどう思っているのだろう。
そんなことを相談できる友だちもいないため、ここのところずっと悶々としている。
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