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1章 災華誅殺
茜にくすむ水面が遠くに水の中。
眼を刺す塩や、喉を満たす死に水。
私とともに墜ちていく益荒男共に兜や剣や、女子供の姿も皆等しくここに沈んでいる。
ただし己が身は彼岸に遠く、
この冷たい苦しみの中に狂い咲くこの魂は、
なにかしら花に憑かれているらしい。
だがこのまま溺れ続ければもしや、
いかな不死であろうとも、いつかはくたばってしまえるのか。
もう私には何も無いのだから。
もう血に穢れた水の中に、己が沈む理由も知らないのだから。
だから――。
そういつも思う微睡みはけれど、咽る血の実感に掻き消されてしまうのだった。
「終わったのか」
そう月夜に私を問う少年は、雨島という名で呼ばれていて、
私も含め、本当の名を知るものは少ない。
もとはどこか百姓の家の息子だったらしいが、
何の因果か花に囚われ、夜な夜な人斬りの真似事を強いられている。
そんな哀れな青年。
だからこそ、時折その影には優しさが透けて見えて、
「奴は……殺したのか」と、俯いたままの暗い顔が呟くのだ。
「ああ」
そう、私の傍らには骸がひとつ。
ついさっきまではこの醜い体を抱いていた細く艶やかな腕と、
今はもう紫に染まる唇が緩むまま。
私につきまとう死の香りは今宵、
美しくも儚い男の亡骸として結実し、そして私が摘み取った。
「シダレの花憑きは今し方斬り伏せた。
もう、これが狂い咲くこともないだろう」
月影の透ける、
夜空を舞う花びらがひらひらと。
私のものではない、もうひとりの飛花の死骸。
雨島は臥した男の強張った頬に落ちたそれを丁寧に払って、
「綺麗な死に顔――燃えずに済んでよかった」
と骸に手を合わせた。眼を瞑り心の底から他者の死を想う姿に、
己の頭には一抹の邪念が入り込む。
それがどこにも届かない祈りと知っていて、
なおもこの哀れな死者を弔うこの男は、
いつか私の死時、同じように祈ってくれるのだろうか。
もはや、救いようのないこの女に。
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