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1.2 嘔吐
曙光の輝る仄暗い空、
昨夜の散策から帰った桜は、災華局庁舎の外観を見上げる。
郵便局を装ったこの石造りの建物は、
南北に出入り口を持って、東西に伸びる構造をしていた。
仕分け箱にはまだ振り分けを待つ手紙が残されていて、
曲がりなりにもここが郵便のための施設であるという偽装として十分に機能していたが、
その手紙たちはもうほとんど金輪際、置かれた場所から動くことはない。
庁舎の用途は別にあり、郵便局に偽装するのは諜報活動の為である。
またその活動の性質上、世間からは極秘の存在として組織され、
同じ省内でも彼らを知るものは少ない。そしてその人間のほとんどは、
大臣を頂点とした系統樹の、もっとも上に近い場所にある者たちだった。
そんな内務省でもかなりの権限を持つこの組織に対しては、
日々多くの手紙や品物が送られ、その内容の検討が行われている。
情報収集は専ら『花憑き』に関する事柄に限られているが、
しかし、物事にその影が一度でも落ちれば、彼らはどんなものであっても
調べ尽くし、場合によっては最悪の事態を防ぐため、対象を排除する。
そして送られるものがあれば送り出すものもあって、
局員の用いる武器弾薬の類はここから届けられるのだ。
なにせ郵便物には大小様々なものをどこへ送ろうが怪しまれることはない。
仮にそうだとしても、怪しいのは送り主と受け取り主で、
運ぶ人間が疑われることは滅多に無い。
という心づもりでこの場所を誂えた人間から
その話を聞いた時、桜は感心すると同時に、その前提に疑問符をつけた。
怪しまれるならば籠の中に放り込んで、牛車にでも牽かせればよいのに。
ああ、最近はどうでもいいことが記憶の中から浮き上がってくる。
そんな自らの心の機微をしかし大事にもせず、
桜は自らに与えられた部屋へと向かうのだった。
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