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「よく食べるねえ」
私たちは家の近くの焼肉店へ移動した。
かれこれ三十分ほど食べ続けている姿を前にドリングバーのジュースをすすりながら頬杖をつく。
「奢りなんで」
「ハハッ、正直でよろしい」
清々しいほどはっきりと言ってのけ、止まらない食欲には見ていて気持ちがいい。私はちょうど運ばれてきた冷麺をもらい無心で頬張った。
「なんででしょうね」
「ん?」
「婚姻届を出さなかった理由です。食べながらずっと考えてたんっすけど、瀬川さんの話だけだとどうも食い違うっていうか。なんかこう気持ち悪くなかったっすか。よく納得しましたね」
思ったことを何でもストレートに言ってくる彼の言葉には動揺する。
でも千秋さんの考えは私にも分からず、納得というのが正しいのかそれも疑問だった。
「勝手にだけど、父との関係がばれたときの保険かなって。届けを出さなきゃいつでも逃げられるし何もなかったことになる」
そんなぼんやりとした考えしか思いつかない。
結局私は知ることから逃げた。はなから諦め、真実に耳を塞いだから何も知らないのだ。
創くんと目が合った瞬間、無性に恥ずかしさがこみ上げた。
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