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私の家族
桜の結婚式から一週間が過ぎた。
風情ある日本庭園が広がる由緒正しき料亭からは、錦鯉の泳ぐ池や手入れの行き届いた存在感のある大きな松の木が見える。隣から聞こえてくる薄っぺらい会話と笑い声に混ざって、獅子脅しの音がした。
退屈な時間を過ごしながら、きつく締め付けられた着物の帯のせいでまともに食事を食べる気にもなれなかった。
時々、帯の間に指を突っ込みながらふと顔を上げたら空を自由に飛んでいる鳥が見える。それが無性に羨ましくなった。
「すっかり私たちばかり話し込んでしまって」
「本当ですね。ついつい奥様とは話が弾んでしまいますわ」
どれだけ話を聞いていても上っ面にしか聞こえてこない。
それは隣に座る母と向かい合う上品な奥様との会話で、盛り上がるふたりとは裏腹にこちらは無音だ。
たまに箸がお皿に触れてカチャッと音が立つ。
二十七歳の春、私は目の前に座る〝能面男〟とお見合いをする。
私と同じくらいの歳だろうか、短髪に眼鏡をかけたいわゆるインテリな彼の名は神谷秀介。
会ってからはまだ一度も表情が動いたところを見ていない。愛想笑いもせず、相手は誰でもいいと言わんばかりに見向きもされなかった。
淡々とこの会を乗り切ろうとしているようにしか思えない。
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