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「それにしても晴日さんは本当にお綺麗な方ね。今日のお着物もとっても似合ってる。ねえ秀介」
「ああ、はい」
反応はするものの黙々と食事をしながら顔はあげない。興味がないのは明らかで私は苦笑いを浮かべる。
こんな場所早く抜け出してしまいたい。
面白くもないのに笑顔を作るのに必死でそろそろ顔の筋肉も引きつりそうになる。
退屈な時間の中、ふと桜の結婚式の日を思い出していた。
華やかな式と披露宴を終えて早々、迎えの車を待たせていた父が帰ろうとする私を引き止めた。
今は帰りたい。
矢島さんとの仲を引き裂き、私たちを兄妹にした父とは一緒にいたくない。
そう思いながらも逆らうことのできない無言の圧を感じ、渋々同じ車に乗り込むと途端に高級感のある手触りのいい台紙を渡された。
『見なさい』
恐る恐る中を開いたら、そこにはかしこまった表情の男性が映っている。
『来週の日曜十二時、雅亭』
唖然とする私に業務連絡のように告げてきた父の言葉とその写真ですぐにピンときた。
『私にお見合いをしろ、ということですか』
『彼は神谷製薬のひとり息子だ。将来、会社を継ぐことになるだろう。良い縁談だ』
驚きのあまり言葉も出ない。
あれだけ矢島さんとの結婚をまとめようとしていた父が、こうも突然変わってしまうなんて信じられなかった。
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