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記憶を整理するかのように順を追って話を続け、ここまで自分の人生を一から十まで人に聞かせたのは初めてだ。
でも話している間は一言も口を挟んでこず、コーヒーを飲みながら真剣な様子で聞き続けてくれる彼にはなんだか話しやすかった。
喉はカラカラでカップの中は空になる。
おもむろに立ち上がり冷蔵庫へ向かい、冷たい麦茶を入れた。
「向こうの両親はきっと何も知らないの。でも今更夫婦の振りなんてできる気しないし。めでたしめでたしとはいかなかったけどそんなところかな」
話終わってどんよりとした空気を感じると、こんなに重苦しい話を年下の子に聞かせるものではなかったとあとになって後悔する。
「ありがとう。話聞いてくれただけでもスッキリした。お礼になんか奢るよ、何食べたい?」
私はこの空気をかき消そうと無理やり明るく振る舞うが返答はなく、振り返ったら創くんは静かにどこか一点を見つめていた。
「行ってみたらどうっすか?」
しばらく黙っていたかと思ったら彼は突然口を開く。
「だって瀬川さん、まだその人のこと好きでしょ」
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