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不意打ちをくらい、目を泳がせながらそっと視線を逸らす。
好きという言葉に心がギュッと締め付けられた。
「そういうのじゃないよ」
一瞬胸のあたりがざわつき頭が混乱する。
何かに気づきかけていたけれどそれを知るのが怖くて、何も見えないよう心に蓋をしようとした。
「騙されてたし、最初凄い感じ悪かったし。それにあの人とはただ一緒に住んでたってだけでそれ以上でもそれ以下でもないから」
私は彼と付き合っていたわけではない。
好きあって夫婦になったわけでもない。
お互いただ結婚したという事実が欲しくて一緒にいただけの赤の他人だ。元々そこに愛なんてなかった。
むしろ千秋さんが欲しかったのはその愛のない結婚だったのだ。
自分を納得させる呪文のように心の中でそう唱え続ける。自分でも恥ずかしくなるくらいムキになっていた。
「そう思いたいならいいっすけど」
キッチンの方へと向き彼に背を向けたら呆れたような声がする。
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