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式場に戻った私は自分の居場所を見つけられずに、ひたすら控え室の前をウロウロとする。
「晴日?」
そこで背後から聞こえてきた透明感のある澄んだ声に反応し、目を泳がせる。見なくても分かる、紛れもなく桜の声だった。
「ねえ晴日、ちょっときて?」
「うん」
少し開いていた控え室の扉に手をかけ、騒つく胸を落ち着かせながら冷静なふりをする。そうして部屋に入ったら純白のドレスに身を包む美しい桜の姿が目に映り、その時ばかりは全てを忘れて純粋に感動した。
「すごく綺麗」
私はしゃがみ込み、彼女を見上げるようにして微笑みかける。
車椅子に座る桜に向かって――。
桜は生まれつき体が弱い。未熟児として生まれてからずっと新生児集中治療室と呼ばれるNICUのカプセルの中にいたと聞いている。
大人になって障害は残らなかったものの免疫力が著しく低下していて、激しい遊びはもちろん少し走るだけでも体を壊してしまう繊細な体だ。
そのため車椅子生活を強いられている桜は、私が物心ついた時からこの状態だった。
「違うの、私」
すると、桜は眉尻を下げ今にも泣きそうな顔で私を見下ろしてくる。
「私、大翔くんが晴日の恋人だったなんて知らなくて」
眉のあたりで切り揃えられた前髪によって表情がはっきりと見える。私の手を不安げに握った手はとてもひんやりしていて、心臓がどくっと脈打った。
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