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「さっきの晴日たちの様子がおかしかったからお母さんに問い詰めたの。まさか晴日の……そんなどうして……」
そこで桜が何も知らなかったのだと知る。
たしかに彼氏ができたと話したことはあっても、矢島さんに会わせたり写真を見せたことはなかった。それに下の名前で呼ぶ桜の本気で戸惑う表情を見たら、全て父が仕組んだものだと確信した。
「私、どうしたら」
そう言いながら、急に胸を押さえ出した桜は過呼吸のような苦しそうな息をする。
「桜? 桜?」
みるみる顔は真っ青になり、慌てる私は部屋を飛び出した。
「誰か! 先生!」
外出するときは必ずついてくる主治医の先生を呼ぼうと声を出す。でも見えるのは式場のスタッフだけで、私は震える手を押さえながら叫び続けた。
そのときタイミング良く到着した矢島さんと目が合い、事態を察知したのか慌てて部屋に入っていった。
小さい頃から体の弱い桜が羨ましかった。
母の注意はいつも桜に向けられていて、私のそばにいたのはベビーシッターのお姉さんだけだった。大きな病気もしなければ滅多に風邪も引かない健康体そのものの私は、誰の注意を引くこともできない。
母の口癖はいつも『晴日ちゃんなら大丈夫』。
その一言だった。
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