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本当は桜を妬んで嫌いにでもなりたかった。
でも、できない。私が一人で泣いているとき真っ先に気づいてくれて、こっそり自分の部屋を抜け出しては会いにきてくれていたのは桜だったから。
父に怒られたときもあの家で息が詰まりそうなときも、いつも支えてくれた。彼女だけが誰にも話せない弱音を聞いてくれて、桜は世界で一番大切な人だ。
「軽い過呼吸のようですね。もう大丈夫です。」
そのあと主治医の先生がすぐに到着し、矢島さんの処置も早かったことから桜は大事には至らなかった。壁にもたれかかりその言葉を聞いてホッと安堵する。
「桜!」
「桜ちゃん?」
それから両親が慌てて飛び込んできたのは、そのすぐ後のことだ。
「晴日何か言ったのか。こんな大事な時に桜を動揺させることでも」
開口一番、父の怒りは私に向けられる。
冷たい目で静かに言う父に疑われ、黙り込む。きっと父は矢島さんとのことで桜を責めたとでも思っているのだろう。弁解する気にもなれず父から目を逸らした。
「待って、お父さん違うの」
そこで私たちの間に割って入ってきた桜は、車いすを必死にこぎながら今ににも消えそうな声で言う。
「ドレスを見てほしくて私が呼んだの。急に苦しくなっちゃっただけで晴日のせいじゃない。先生と矢島さんを呼んでくれたのは晴日なの」
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