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桜は自分の体が弱いせいで、瀬川家の娘としての重圧を私ひとりにおわせてしまっていると責任を感じている。だから私が父から責められそうになるたび必ず庇おうとする。
昔からずっとそうだ。
「そうか、それならいい」
父はそれだけ言って部屋を出る。隣であたふたする母は先生と矢島さんに会釈をしてから後を追っていく。
「晴日、ごめんなさい」
「花嫁がそんな顔しちゃダメでしょう。私先に行ってるね」
式が始まるまであと三十分。
今更この結婚がどうこうなるはずもなく、何を言っても無駄だと思った。
〝妹の恋人を奪って結婚した非道な花嫁〟
何も知らずにいた桜がそんなレッテルをはられて誤解を受け、白い目で見られるようなことになってはいけない。
「晴日!」
控え室を出てすぐに矢島さんの声が聞こえた。
「あとでちゃんと話したい。これには訳があって」
この期に及んでまだ弁解しようとする。
それがただただ悲しくて、立ち止まった私はくるりと振り返る。
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