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「いただきます」
誰に言うでもなく、僕は呟く。君はいつも、食べる前にきっちり手を合わせてそう言っていたから。
そういうところも好きだった。
スプーンでぺっとりしたチャーハンを掬う。
口に入れると、醤油を入れすぎたのか、しょっぱさが一番にやってきた。
「……ぜんっぜん、美味しくないじゃん」
ぽたぽたぽた、と机に水滴が落ちた。しょっぱいのは、僕の涙のせいかもしれない。
醤油は入れすぎ、野菜は生焼け、ご飯はぺっとりしているし、ベーコンはなぜか焦げている。
ずっと作っていても全く上手くならないチャーハン。
だけど、君はずっと美味しいって食べてくれていたんだ。
そんなことに今更気づく。君がいたから、僕も美味しいって食べていたことにも。
こんなに不味いチャーハン1つですら、思い出が溢れているのに。
思い出ばかりが残るこの部屋で、僕はいったいどうやってこれから過ごせば良いんだい?
問いかけても、答えてくれる人はいない。
仕事を言い訳に、何もかもを蔑ろにした僕を待っていたものは、空虚な部屋と不味いご飯――君のいない、現実。
僕にとってどれだけ君の存在が大きかったのか、今更思い知らされる。
机の上にぽつんと置かれた一筆箋。見慣れた文字が小さく並んでいる。
『ごめんね、さよなら』
便箋の隅に、ぽつぽつと水滴の跡がある。きっとこれは、君の涙の跡だろう。
そっとそれを指で撫でて、チャーハンを口に運ぶ。
涙も一緒に、ぎゅっと噛み締めた。君のいない現実は、そう簡単に飲み込めない。
いつにも増してしょっぱい味が、口の中に広がった。
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