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3年付き合った彼女が、家を出て行った。
結婚するものだと思っていた。だから去年、同棲を始めた。
2人で決めたテレビ、2人で決めたソファ、2人で決めた冷蔵庫、2人で決めたベッド。カーテンだけはこれが良いって君が言ったんだっけ。
思い出ばかりが残されて、肝心の君はどこにもいない。
君の残した家具や物で囲まれているはずなのに、空っぽの部屋にいるような気がして、胸がぎゅっと痛くなる。
ご飯の担当はいつも君。土曜日だけ僕。
僕はチャーハンしか作れないから、土曜日の夜はいつもそれだった。
「ごめんね、いつも同じメニューで」
と言う僕に、
「美味しいから良いの」
って、君は笑ってくれた。
不器用な僕が、君の倍以上の時間をかけて作ったご飯。君はいつだってわくわくして待っていて、テーブルにお皿が置かれただけで、すごく嬉しそうな顔をしていた。
「美味しい、美味しい」
って、ずっとにこにこしたまま言うから、つられて僕も笑って食べた。
いつからそんな風に食卓を囲まなくなったんだっけ。
感傷に浸っていても、お腹は空いてくる。
仕方なく、キッチンに行ってチャーハンを作る準備をする。
シンクに並んだ、赤と青のマグカップが目に入る。付き合って初めてのクリスマス、君と色違いで買ったマグカップ。置いて行ったのか、とまた胸が痛くなる。
炊飯器には、君が炊いたご飯がまだ温かいまま残っていて、食べてしまうのが少し惜しくなる。君の痕跡がまた一つ、消えてしまう気がして。
にんじんに玉ねぎ、ピーマンにベーコン。
「ピーマンはみじん切りにしてね」
君はいつもそう言っていたっけ。いつまで経っても、ピーマンだけは嫌いなままだった君。子供みたいな味覚だったから、辛い物も食べられなくってカレーはいつも甘口だった。
君がいなくなったから、カレーはもう辛口でも良いんだ。
そう気づいたけれど、今更何も嬉しくない。
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