24人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
すれ違い始めたのは、半年くらい前だったか。
僕の仕事が忙しくて、顔を合わせる時間がどんどん短くなっていった。残業も増えて、なかなか家に帰れない日が続いていた。
たまに仕事が休みでも、僕は疲れて寝てばかり。
家のことなんて何一つ、やってこなかった。
君だって仕事はしていたのに、合間を縫ってご飯を作り、掃除をして、洗濯をして。文句もたくさんあっただろうに、言う暇すら与えなかったのは僕だ。
寝てばかりの僕をたまにつついて起こしては、
「かまってよ、つまんないよ」
って寂しそうにしていた。眠気の勝る僕はごめんね、と言いつつまた眠りに落ちていった。
君はどんな顔をしていたんだろう。今となっては思い出せない。
ゆっくりゆっくり時間をかけて、野菜を刻む。
刻み終わったら、次はコンロに火をつける。
「ここは都市ガスじゃないから、ガス代が高くなって嫌だね」
そんな話もしていたっけ。
チチチチチ、と音を立てて青い炎が立ち上がるのを、ぼんやりと見つめた。
フライパンに油をひいて、野菜とベーコンを炒める。
その間に、器に卵を割って溶く。ここでマヨネーズを入れるのが僕の隠し味。
卵をそっとフライパンに流し入れて、すかさずご飯を投入する。
いつだったか、ご飯がパラパラのチャーハンを作って君に食べさせてあげるって話をしたけれど、結局いつまで経ってもパラパラのチャーハンは作れなかった。
塩と胡椒を適当に振りかけて、醤油を投入。香りだけは良いチャーハンが出来上がる。
食卓にお皿を並べると、残業から帰ってきたときを思い出す。
ご飯、味噌汁、それとおかず。ラップがかけられて、毎日きっちり用意されていた。オムライスが作ってあった日は、ケチャップで「おつかれ!」と書いてあった。
オムライスなんてどうやって作るのだろう。
君の作るオムライスは、ケチャップライスはちょっとしょっぱい。でも卵はふわふわで甘くって、まるで君みたいな味がした。同棲を始めた頃の君。明るい未来しかないと思っていた頃。
最初のコメントを投稿しよう!