第3話(3)白髪の眼鏡っ娘の提案

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第3話(3)白髪の眼鏡っ娘の提案

「まさかこんな所で出会えるとはね。パンイチとは予想外だったけど……」  褐色の女の子が苦笑いを浮かべる。俺も同調する。 「私としても全くの予想外でした」 「十分避けられる事態でしたけどね……」  スティラが呆れ気味に呟く。アパネが問い掛ける。 「キミは誰? どうして牢屋に入っているの?」 「アタシはルドンナ。酒場で飲んでいたら酔ったエロオヤジに絡まれてさ。ベタベタ触ってきやがってウザいから懲らしめてやろうとしたらちょっとばかりやり過ぎちゃってね……酒場の建物を半壊にしちゃったんだ」 「半壊⁉」 「そのオヤジも痴漢でしょっぴかれたけど、それはそれ、これはこれ、ってことで建造物損壊罪に問うとか言われちゃってさ……まあ、アタシが魅力的なのがいけないんだけど」  そう言って、ルドンナと名乗った女の子は体をくねらせながら、ポーズを取る。本人としてはセクシーポーズのつもりなのだろうが、わりと幼めな顔立ちと小柄かつスレンダーな体格の為か、正直そこまでのセクシーさは感じられない。それでも、羽織った短めの青いローブと黒いシャツからチラリと覗く細い二の腕、黒の短パンから出ている健康的な太ももにはそれなりに目を奪われてしまう。そんな俺に対して、スティラが冷ややかな視線を送っていることに気付き、俺は慌てて話題を変える。 「わ、私のことを知っているようですが?」 「このメニークランズ各地ではぼちぼちと噂になってきているよ、転生者でしかも勇者なんてそうそうやってくるもんじゃないし。何よりこんなご時世だしね」 「ご時世?」 「流石に耳にはしているでしょ? 魔王ザシンが復活したっていう噂は」 「ああ、そ、それは勿論」 「魔族や魔物がそれに伴って動きを活発化させてきている……皆の平穏な暮らしが脅かされつつある今、この地方に住む力なきものたちは皆、勇者様の救世主としての活躍を期待しているんだよ!」  ルドンナは俺をビシッと指差してくる。その期待には出来るだけ応えたいところだが、只今の俺はパンツ一丁だ。恐らくこの世界で最も無力な存在に近いだろう。とりあえず顔だけでもキリっとさせつつ、俺はゆっくりと口を開く。 「……大変情けないことですが、今私はこのように牢屋に囚われてしまっています。まずはここから出ないといけません」 「事情は聞こえていたから大体分かるよ」  ルドンナは改めて苦笑いを浮かべる。 「じゃあ、脱獄する?」  そう呟きながら、アパネが牢屋の鉄格子を軽く曲げる。スティラが驚く。 「アパネ、何をやっているのですか⁉」 「月の光を見れば力が湧いてくるんだ、これくらいの鉄格子ならなんてことないよ」 「そういうことではなくて! 脱獄なんてしたら、ますます面倒なことになります!」 「ちえっ……」  アパネは鉄格子から手を離す。ルドンナはそれを見て声を上げて笑う。 「はははっ! 流石は獣人族だ、そんなちっこいのに力が段違いだね」 「はっ? どこからどう見たってボクの方が大きいでしょ⁉」  アパネはムッとして、片手をかざしながらルドンナと背比べをする。正直言ってどちらも同じくらいの背丈である。ルドンナはそんなアパネを無視し、俺に向かって話す。 「……牢屋を出る方法ならあるよ」 「⁉ 本当ですか?」 「まあ、条件がつくんだけどね」 「条件ですか?」 「そう、モンスターの討伐だよ」 「討伐?」  首を捻る俺たちに、ルドンナは窓の外を指差す。 「ここから見えるあの山にオークどもが巣のようなものを作っているらしい。基本的には山道を通るものを襲っているようだけど、時折二、三匹ほどで町の近くまで降りてきて暴れることがあるんだって。町の自警団が頑張って追い払っているんだけど、それもちょっと限界がきている……」 「……見た感じ、そんなに武装が整っているわけじゃなさそうだしね」  アパネの言葉にルドンナが頷く。 「そう、幸いなことにまだ死者は出てないけど、怪我人が出始めている……」 「この近隣には兵力を保有する領主さまがいらっしゃったはずです。その御方のお力をお借りしてはいないのですか?」  スティラの問いにルドンナが答える。 「当然、救援要請を再三出しているさ。こういう時の為に多額の税もその領主さまに納めているわけだからね。ただ、現在は領土を隣接する他の領主と小競り合いを起こしていてね。とてもこちらに兵を回す余裕が無いそうだ」 「そ、そんな……」 「人間同士で争っている場合じゃないでしょ……」  スティラは絶句し、アパネは呆れたように呟く。俺は口を開く。 「つまり……そのオークどもを討伐すれば、無罪放免になるということですか?」 「それどころか、多額の報酬を出してくれるってさ」  ルドンナは笑顔を見せる。俺は腕を組んで頷く。 「成程……」 「そんな美味しい話を聞きつけて、この町に来たんだけど、流石にアタシ一人じゃ難渋しそうでさ。さて、どうしたもんかなって考えていたんだけど……そこに勇者様ご一行が現れた。これは天啓ってやつだね、アタシは神様は都合の良いときしか信じないけど」 「……何が言いたいのですか?」 「アタシと組まないか、ってこと」 「ふむ……」  俺はルドンナのことをじっと見つめる。武具類などは持っていない。小柄な体格をした人間の女の子だ。人並み外れた膂力があるようにも見えない。とすると、スティラと同様に魔法使いであろうか。そんなことを考えている俺に対し、ルドンナが口を開く。 「品定めしているところ悪いんだけど、あまり時間的余裕はないんだ」 「え?」 「言い忘れていたけど、先頃オークの方で不審な動きが確認されたようでね、どうやらそろそろ本格的に町を襲ってきそうなんだよ」 「⁉ 迷っている暇などないということですか……」 「そういうこと」 「分かりました、ルドンナ、貴女と手を組みましょう」 「ふふっ、そうこなくっちゃ♪」  ルドンナはウィンクすると、鉄格子越しに人を呼び、自分たちがモンスターを討伐する旨を伝える。話はスムーズに運び、俺たちはあっさりと牢屋から出ることが出来た。 「とりあえず外に出られましたね……」  スティラはホッとした表情を見せる。 「完全に自由になったわけじゃない、ここからが本番だよ」  ルドンナが釘を刺す。スティラが答える。 「分かっています、悪しきモンスターを倒しましょう」 「馬車や荷物も没収されちゃっているしね……」  アパネが呟く。そう、俺たちが途中で逃げ出さないように、馬車や荷物は町の自警団が預かることになった。勿論、俺たちは逃げるつもりは無い。ただ、気がかりがある。 「えっと……私の剣なのですが……」 「ああ、こちらにありますよ」  スティラがローブの下に隠していた剣を差し出してくる。俺は驚く。 「ど、どうして……?」 「ショー様が賭けに夢中になっていたので、万が一の為にお預かりしていました。これまで賭けると言い出しかねませんでしたから……」 「あ、ありがとうございます! 助かります! ……さて、山に向かいましょう!」  俺は剣を受け取って、皆に声を掛ける。剣があるのは心強い。これがあるとないとでは大違いだからだ。俺は山に向かって歩き出す。パンツ一丁のまま。
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