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第4話(3)橋上の闘い
「来たようでござるな……」
明朝、大橋の上でドワーフの女性が仁王立ちして、俺たちの到着を待っていた。彼女の狙いが不明瞭だ。分からない、というか、怖い。とにかく今俺たちに出来ることは昨夜(強引に)立て替えさせられた飲食代の返還を求めることだ。
「あの……」
「昨夜はゴチになりましたでござる」
「ああ、いえ……!」
やられた。今のやりとりで奢りが成立してしまった。まんまと先手を打たれた形だ。しかし、もうそれはしょうがない。頭を切り替えよう。
「腕の良い鍛冶屋さんを紹介してくれるということなのですが……」
「左様、但し昨夜も申した通り、それには条件があるでござる」
「その条件とは?」
「そなたらは勇者の一行なのでござろう?」
「ええ、一応そうですが……」
「ならば腕に覚えがあるということ!」
「んん?」
「それがしは武芸の研鑚を積み重ねているでござる! それがしと戦って、それがしに傷を付けることが出来たら、鍛冶屋を紹介して進ぜよう!」
「⁉」
そう言って、ドワーフの女性は構えを取る。よくよく見てみると、背中や腰に多数の武器を携えている。しかし、妙な展開になったな。そんなことを呑気に考えていたら、アパネが勢いよく飛び掛かる。
「売られた喧嘩は買う主義だよ!」
「アパネ!」
「ふん!」
「! ぐはっ……」
アパネが崩れ落ちる。ドワーフの女性の手には斧が握られている。もっとも、刃ではなく、柄の部分で殴ったようである。女性は声高らかに叫ぶ。
「速さは流石! しかし、それも力でもってねじ伏せるのみ!」
「アパネのアホ! 武器持ちに近距離戦を挑んでもしょうがないでしょ!」
ルドンナが叫び、何かを召喚しようとする。俺は慌てる。
「ルドンナ! あまり強力過ぎるのは周囲に危険が……!」
「分かっている! おいで、シューターフェアリーちゃんたち!」
ルドンナが僅かな時間で召喚したのは四体のフェアリーである。先日見たフェアリーよりはやや大柄で、それぞれ弓矢を構えている。
「遠距離から攻撃すればそれで済む話でしょ!」
「むん!」
「なっ⁉」
ルドンナが唖然とする。女性が素早く弓矢を放ち、瞬く間に四体のフェアリーを消滅させてしまったのである。
「遠距離にも問題なく対応できるでござる!」
「そんな……ぐっ!」
ルドンナがうずくまる。女性の放った二本の矢がルドンナの両肩に当たったのだ。
「ルドンナ!」
「鏃の部分は丸めてあるでござる! 命までの心配はござらん!」
「スティラ! まずアパネを!」
「分かりました!」
俺はスティラにアパネを回復させるように指示する。ルドンナを回復しても、召喚には多少の時間がかかる。この相手にその時間を与えてしまってはかえってこちらが不利になるであろうという判断からだ。
「そうはさせん!」
「! うっ……」
アパネに近づこうと動き出したスティラの腹部に、女性が槍を突き立てる。槍の先は保護してあるが、痛烈な突きであることには変わりない。スティラはその場に膝を突く。
「スティラ!」
「非戦闘員には少し手荒でござったか……? 許されよ!」
女性は槍を背中に納める。4対1という数的有利はあっという間に失われた。しかし、斧、弓矢、槍を使いこなすとは……この女性、本当にドワーフなのか? 確かにドワーフはどこの世界においても、比較的好戦的な性格のものが多かった記憶があるが……俺はアヤコとの会話を思い出していた。
「どこの世界にもそれぞれ似た種族は存在しますが、その性格や志向が全く同じものだとは考えない方が良いですね」
「ふむ……だが、大抵どこの世界でもエルフは美形で、ドワーフは小柄だ」
「イレギュラーな存在というのはどこにもいます」
「イレギュラーね……」
「見方を変えれば、馬鹿正直に型にはまる必要性はないということです」
「転生者としての心構えか?」
「あくまで私の考えです」
俺は女性との距離を詰める。思ったよりも容易に懐に入ることが出来た。剣を抜く構えを見せる俺に対し、女性も腰の剣を素早く鞘から抜く。少し反りの入った変わった剣だ。恐らくだが、『カタナ』というやつであろう。そんなことが頭をよぎりながら、俺は折れた剣の柄の部分を使って、なんとかその攻撃を受け止める。女性が驚く。
「折れた剣⁉ どおりで殺気が感じられないと……」
「『木剣』!」
「⁉」
俺は空いた左手から木を剣の形に生えさせて、女性の顔を狙った。勿論、寸止めするつもりであったが、まだ上手く魔法の制御が効かなかった為、伸びた先端が、女性の顔をわずかに掠めてしまう。それとほぼ同時に繰り出した女性の剣が俺の腹部を襲い、俺は崩れ落ちる。ただ、剣の刃先ではなく、逆さまにしてあった為、斬られたわけではなかった。
「ぐう……」
「その様な魔法を使うとは……全く虚を突かれたでござる」
「スティラ、自分が済んだらこちらの方の回復を先にお願いします。女性の顔に傷をつけてしまいました……」
「!」
俺は意識を失う。やや間があって、目を覚ますと女性が立っていた。
「い、いや、また、随分とお強いですね……」
「……それがし、自分で言うのもなんだが、変わり者でござる……」
それは言われなくても分かりますと言うのを俺はグッとこらえる。女性は続ける。
「この図体でござる……手先もドワーフにしては不器用な方……それ故かは分からぬが、幼き頃より『武器を造る』よりも『武器を扱う』ことに興味がござってな……」
「はあ……」
「それでこうして、腕の立ちそうな旅の方に勝負を挑んでいるのでござる」
「そうですか……お眼鏡には叶いましたか?」
「正直な話、腕の方は若干期待外れでござった……ただ、そなたの持つ武士道精神には大変、感銘を受けたでござる」
「ブ、ブシドー?」
なんかよく分からないことを言い出したぞ。精神的なことか? 全く無自覚なのだが。
「それがしに傷を付けたのは事実……鍛冶屋を紹介して進ぜよう」
「あ、ありがとうございます! えっと……」
「それがし、モンドと申す」
「あ、はい、私はショー=ロークです」
モンドと名乗った女性が恭しく頭を下げてきたので、俺もたどたどしく返礼する。その後、スティラがアパネたちを回復した。しかし、モンドの攻撃は強烈であった為か、まだダメージが残っているようだった。モンドは俺たちをある建物の前に連れてくる。
「ここが、この里一番の鍛冶屋でござる。但し、休業中でござる」
「ええっ⁉」
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