第1話(2)エルフ同行許可(あくまでも戦力として)

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第1話(2)エルフ同行許可(あくまでも戦力として)

「少し唐突なお願いですが……鏡などあったら貸して頂けませんか?」 「鏡ですか? 上の我が家にならば姿見がまだ残っているはず……誰か持ってきてくれ」  持ってきてもらった姿見で、俺はを確認する。 (ふむ……容姿は特別良い方ではないが悪くもないな。髪色は黒が基調だが若干グリーンが入っているのか。長さはこれくらいさっぱりしていた方が良い。体付きは程よく引き締まっている。筋骨隆々だとどうしても俊敏さに欠けるきらいがあるからな) 「あ、あの、勇者様……?」  長が不思議そうに尋ねてくる。このままでは集落の危機が間近に迫っているというのに、鏡で自分の顔や体を入念にチェックする単なるナルシストだ。俺は慌てて取り繕う。 「あ、ああ、ご心配なく、武具等の確認をしておりました」  これは半分嘘で半分本当だ。武具や防具がしっかりしていなければどんな勇敢な勇者でも、どんなに精強な戦士でも、雑魚モンスター一匹を狩ることにすら難渋するのだから。装備は鉄の剣、錆びてはいないが、古い剣だ。軽く二、三度振ってみる。重さは感じない。手にはすぐ馴染む。悪い剣ではない。盾についても同様のことが言えた。  続いて服装だ。赤色の厚手の皮で出来た鎧に身を包んでいる。パンツは白で、ブーツは黒。青いマントが背中にたなびいている。そして何故か首元に緑のマフラーが巻いてある。単におしゃれアイテムというわけでもないだろう。身に付けておくことで何らかの特殊効果が期待できるかもしれない。腰の辺りには小さな茶色の鞄がぶら下がっている。勇者に相応しいものかと思ったが、薬草等をこれの中に常備しておくといいかもしれない。 「勇者様……?」  長の声に俺はハッとなり、彼の方に向き直る。 「失礼、確認終わりました」 「そうですか、入念に確認をされるものなのですね。長く生きておりますが、勇者様という方とこうして直にお目にかかるのは初めてでして……」 「戦いというのは準備の段階で八割方勝敗が決まるものです」……などと言うどこかの世界で聞きかじった言葉を、この長に偉そうに言ってもしょうがない。俺は長や周りのエルフたちを安心させるような笑顔を浮かべて告げる。 「何も心配はいりません。この村の平穏は私、ショー=ロークが取り戻してみせます」 「長様!」  若く美しい女性のエルフがその輪の中に飛び込んできた。 「スティラか、どうしたのだ……?」 「わたくしが勇者様にお供することをお許しください!」 「な、ならぬ⁉ そなたはいよいよとなれば子供らを連れ、逃げてもらわねばならん!」 「そこを曲げてお願いしております!」 「ならぬと言ったらならぬ!」  埒が明かぬと思ったかスティラと呼ばれた女は俺の方に向き直り、跪いて頭を下げる。 「勇者様、是非ともわたくしめをお供にお加え下さい! わたくしは……」  長く綺麗な金の髪を大きな三つ編みのおさげにして前に垂らしていて、白く清潔感のあるローブを身に纏っている。慌てて駆け込んできたためか、ローブの胸元が若干はだけており、そこからのぞく豊満な胸元が俺の目に入る。その時点で俺の考えは決まった。 「良いでしょう。ただ危険ですから、私から極力離れないように」  俺はわざとらしい咳払いをしながら彼女の同行を認めた。胸元に気をとられ、彼女の言葉を半分聞いていなかったのだが、服装や持ち物の杖から判断するに魔法使いであろう。俺たちは地下室から地上に出て、聖堂を目指す。 「初っ端から仲間同行のクエストとは……果たしてそこまでの相手だろうか?」 「え? なにかおっしゃいましたか?」 「いや、なんでもない、只の一人言です、気にしないでください」 「? ここが聖堂です」  スティラが指し示した建物は成程、この集落一番の立派な建物だったのであろう。しかし、屋根や外壁の一部が無残にも壊されてしまっている。 「ここにモンスターが逃げ込んだのですか?」 「正確には迷い込んだところを長様たちの結界魔法で閉じ込めることが出来ました」 「その結界も破られそうだと……」 「ええ、そうです」  俺は首を捻った。この世界の魔法技術の練度などに関してはまださっぱりだが、長たちがかけたというこの結界魔法、かなりのものなのではないだろうか。これを破ろうとしているモンスターだと? いやいや、長たちの魔力が衰えているのだろう。そうだ、そうに違いない。俺は首を左右に振り、わずかに生じた疑念を打ち消す。 「魔法の対象外であるわたくしたちはこの結界は自由に出入りすることが可能です……いかがなさいますか?」 「ふむ、そうですか……それでは正面から突っ込みます」 「⁉ だ、大丈夫なのですか?」  スティラが驚いた顔を見せる。俺は頷いた後、小声で呟く。 「この段階での戦闘はあくまでもだ。心配することはない」  俺は不安げに見つめてくるスティラに指示する。 「私が前衛を務めます。貴女は後衛に控えていて下さい。もしも私が傷付くようなことがあれば、迅速な回復をお願いします」  スティラは杖を片手に深く頷く。もっともそのような事態は起こらないと思うが。 「では、行きます!」  俺が勢い良く聖堂のドアを蹴破る。聖堂の奥の方に進むと、そこには身の丈が俺の倍以上もある巨大なミノタウロスが立っていて、近づいてきた俺たちに視線を向ける。 「お、おおっ……」  その大きさに一瞬たじろいだが、なんの俺は百戦錬磨のCランク勇者だ。こんなDランク異世界のモンスター、しかも転生早々に戦うような相手だ、どうせ見かけ倒しだろう。恐るるに足りん。 「うおおおっ!」  俺は声を上げながら勢い良く斬りかかる。だが、次の瞬間、俺の体は聖堂の外に吹っ飛んでいた。ミノタウロスの持っていた金棒で殴られたのだろうか、俺の腹は血まみれになっていた。あばら骨も何本か折れたかもしれない。うん、この感じ、間違いない。 「勇者様!」  スティラが慌てて駆け寄ってくる。俺は息も絶え絶えながら、なんとか片手を上げて彼女を少し落ち着かせ、心の中で『ポーズ』と唱える。俺も彼女も時が止まったような状態になる。良かった、この力は使えるんだな……と安心しつつ、続いて俺は『ヘルプ』と唱える。聞き覚えのある女の声が脳内に響く。 「……はい、こちら転生者派遣センターのアヤコ=ダテニです……」 「っざけんな‼ 話が違うだろうが!」  俺は脳内での会話相手に思いっ切り怒鳴りつけていた。ここで話は冒頭に戻る。
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