第6話(1)領主を訪ねてみた

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第6話(1)領主を訪ねてみた

                  6 「……集まったわね、勇者さんご一行」  メラヌが皆を見渡して告げる。アパネが食ってかかる。 「なんなの⁉ あの襲ってきた連中は? 何者なの?」 「アパネ、落ち着いて下さい。そもそも貴女は誰なのですか?」  スティラがアパネを落ち着かせながら改めて問う。 「話せば長くなるから細かいことは割愛するけど……私はメラヌ、ごく普通の魔女よ」 「その細かいことを知りたいのですが……」  俺の呟きをあっさり無視し、メラヌは俺の後ろに立っていたモンドたちに話し掛ける。 「魔法は碌に使わずに、この地域では珍しい拳銃で戦う胡散臭い魔女、それが私!」 「! む……」 「今時箒で空を飛ぶ化石級に古く、なおかついかがわしい魔女、それも私!」 「! ははっ……」  罰の悪そうな顔を浮かべるモンドとルドンナの間をすり抜けて、メラヌは振り返る。 「……皆さん、あらためてよろしくね!」 「よ、よろしくお願いします」 「ショー、受け入れるの速すぎるよ! 大体ボクの質問にまだ答えていないよ!」  アパネがビシっとメラヌを指差す。メラヌは笑顔から急に真面目な顔つきになる。 「あの悪い魔法使いたちは、魔族に与する連中……」 「魔族に与する……やはり目的は……?」  スティラの言葉にメラヌが頷く。 「そう、最終目的は魔王ザシンの完全なる復活よ」 「魔獣とやらも派手に暴れていたけど?」 「人間の魔法使いには魔獣の扱いは難しい。裏で魔族の動きが活発化してきたようね」  ルドンナの問いにメラヌが答える。 「魔族とは先程戦っておられたものでござるが?」 「そう、人並み外れた力に強い魔力を兼ね備えたものが多い種族ね」  モンドの指摘にメラヌが頷きながら答え、話を続ける。 「このメニークランズは表面上とはいえ『多種族共生』を自分たちの信条に掲げてきた……おかげで、多少の小競り合いこそあるけど、この数十年はある程度の平和と均衡が保たれてきた。しかし、それを良しとしない、面白く思わない種族も数多い。魔族はそういう種族を時には言葉巧みに丸め込み、時には屈服させることによって、自らの勢力下に着々と取り込んでいる。『圧倒的なまでの力を持つ恐るべき魔王の復活』を旗印にして」 「そんな……」  スティラが絶句する。俺が尋ねる。 「魔王はまだ完全には復活していないという話も聞きますが?」 「それも時間の問題ね……」 「では、どうすれば⁉」  詰め寄る俺を制し、メラヌが再び話を続ける。 「とりあえず、皆揃ったことだし、この都市を治める領主様にご挨拶しましょう」  メラヌが指し示した先には立派な城がある。この都市のちょうど中心に建っている。城の前には大きな門があり、重武装をした衛兵が十数人、警備にあたっている。メラヌは臆せず近づき、その内の一人に話しかける。簡単なやり取りをした後、俺たちは城の中に入ることを許可された。武器を預け、大きな部屋に通される。応接の間であろうか。この世界での作法が今一つ分からなかったのだが、メラヌとスティラ、そしてルドンナが片膝をついて腰を下ろし、頭を下げた為、俺やアパネも見よう見まねでそれに従った。 「領主様が参られます」  俺たちが入る前から既にこの部屋にいた少年がよく通る声で告げる。重々しい扉が開くと、貫録のある壮年男性がしっかりとした足取りで部屋に入ってきて、数段高い位置に置かれた椅子に座る。この人物がこの辺り一帯の領主か。少し間を置いて領主が口を開く。 「一同、顔を上げよ」  領主の威厳のある声に従い、俺たちはゆっくりと顔を上げる。豊かな髭をたくわえ、きちんと整った服装に身を包んだ男性が正面の椅子に座っている。 「メラヌよ、随分と久しいな」 「……領主様におかれましても、ご壮健で何よりでございます」  領主はまずメラヌに声をかけ、メラヌも微笑をたたえつつ答える。 「いや、こう見えても所々、だいぶくたびれてきておるぞ、変わらぬそなたが羨ましい」 「はて? 最後にお目に掛かったのは、のことだったかと思いましたが……」 「わははは! つい先日ときたか。物は言いようだな」  領主は声を上げて笑った後、真面目な顔つきになる。 「……諸々の報告は受けておる。魔族らが侵入したようだな」 「ええ……」 「そなたらが撃退してくれたとのこと、礼を言う」 「いえ、大したことではありません」 「魔族がその活動を活発化させてきたのは……魔王の復活が近いということだな」 「お察しの通りでございます」 「気苦労ばかりが増えるな……」  領主が頬杖をついて、ため息をこぼす。メラヌが一呼吸を置いて、語りかける。 「その気苦労を減らしてくれるであろう者たちをお連れしました」 「ふむ……転生者の勇者とその一行か。それも報告は受けている」 「簡単にではありますが、一応紹介させて頂いても宜しいでしょうか?」 「ああ、頼む」 「ありがとうございます。こちらがエルフのスティラ、回復魔法に長けております。そしてこちらが狼の獣人アパネ、近接戦闘に秀でております」 「……お目に掛かることが出来て光栄であります」 「で、であります!」  恭しく頭を下げるスティラを見て、アパネも慌てて頭を下げる。 「……こちらが、召喚士のルドンナ、まだ若年ながらその召喚術は優れたものです。隣がドワーフのモンド、様々な武器の扱いに長じております」 「えっと……お目に掛かることが出来て恐悦至極に存じます」 「? ぞ、存じますでござる!」  ルドンナとモンドも頭を下げる。 「そしてこちらが、転生者の勇者、ショー=ローク殿です」 「お目に掛かることが出来て幸甚の至りであります」  紹介された俺は微笑みながら頭を下げる。領主が頷きながら呟く。 「なかなか個性的な顔ぶれだな……」 「なれど腕は確かです」 「そ、そんなに断言してしまって大丈夫なのですか? スティラたちの戦いぶりは実際には見ていないでしょう?」  俺は慌ててメラヌに小声で尋ねる。メラヌはウィンクして答える。 「使い魔たちからの情報で大体のことは分かっているわ。それにこういうのはハッタリをかますのも大事なのよ」 「ハ、ハッタリって……」 「……そなたが言うのならそれはそうなのであろうな」  領主の言葉に俺は驚いた。ハッタリが通じた。メラヌが畳みかける。 「では、魔王を本格的に討伐するための援助を賜りたく存じます」 「そなたには先代、いや、先々代の領主の頃から世話になっている。こちら側としても是非にと応じたいところではあるが……」  領主が言葉を濁す。メラヌがやや首を傾げる。 「……なにか問題でも?」 「まずはセントラともよく相談せねばなるまい……」 「セントラ? 聞かない名前ですね……」 「ここ数年、政策決定に関して色々と助言をしてもらっている偉大な賢者だ。表には出たがらぬ性格でメニークランズ外出身ということもある、そなたが知らぬのも無理はない」 「ほう……?」 「そして、問題がもう一つ……転生者は間に合っておる」 「ええっ⁉」  俺は思わず大声を上げてしまった。
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