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第6話(3)高ランクパーティーの進撃
♢
「どういうことなんだ⁉」
「ですから、その様に大声を出さなくてもちゃんと聞こえております……」
俺は久方ぶりに心の中で『ポーズ』と唱え、次いで、『ヘルプ』と唱えた。つまり、わざわざ『助けて』と唱えているのだ。急を要する事態が差し迫っていることくらい容易に想像できそうなものだが、転生者派遣センターの職員、アヤコ=ダテニは小憎らしいほどにいつも通りの面倒臭そうな声色で対応してきやがった。
「ど、どうしてこんなことに?」
「ご存知だとは思いますが、転生者が同じ世界に存在するということは別にそれほど珍しいことではありません」
「そ、それにしてもだな! 高ランクの転生者同士でパーティーを組むなんて……」
「そもそもとして厳密なルールなどありません。明確なメリットがあるのであれば、高ランクの転生者同士でパーティーを組むということはこういった状況においての最適解だと思われます。なにか不都合でも?」
「不都合は……別にないが!」
三日間の準備期間を終えて、魔王を討伐すべく城を出発した俺たちは城の南方に広がる広大な森を通過する。森の中でも、大量のモンスターが出現した。当初の予定では俺たちの援護にあたる領主の兵たちが迎撃する手筈となっていたが、あまりにも数が多い為、俺たちも戦うことになった。だが……俺たちがほとんど手を出す暇も無く、ほんの一瞬で、SSランク勇者アザマたちがモンスターの群れを蹴散らしてみせたのである。
「無いのですか?」
「ああ、このままいくと、俺たちは労せずして魔王討伐の功を得ることになる」
「それはそれで結構なことではありませんか」
「そうは言っても、このままではなんというか……」
「なんというか?」
「達成感というものが無いぞ!」
アヤコが呆れたようなため息をつくのが聞こえる。
「……別に良いのでは?」
「いや、なんかこう……虚しいだろう⁉」
「自己の気分を充実させたいがために転生者をやっているのですか?」
「いや、そんな自分探しの旅みたいなテンションではないが……」
「リスクを避けられるのだから良いではありませんか。魔王を討伐、あるいはその復活を阻止すれば、その世界での目的は達せられるはずです。お望みの悠悠自適のスローライフを送ることも出来るはずですよ……それでは失礼致します」
「あ! ちょっと待て! ……また切りやがったな」
♢
俺は渋々ポーズを解く。時間が再び動き出す。数多いたモンスターも片付いた。もうすぐ森の出口だ。話に聞いていた古代神殿も見えてきた。古びてはいるが、かなりの大きさであることが分かる。アザマが振り返り、不遜な態度で領主の兵たちに伝える。
「お前ら、これ以上ついてきても足手まといになるだけだからこの辺で見学してな」
その物言いに兵たちの一部は若干色めき立ったが、圧倒的な実力差を目の当たりにしているため、黙り込むしか出来なかった。アザマは俺たちの方に向く。
「お前らも尻尾を巻いて逃げ出すなら今の内だぞ」
「だ、誰が! 逃げたりなど致しません!」
俺は即座に言い返す。自分で言うのもなんだが、威勢だけは良い。アザマは鼻で笑う。
「ふん、勝手にしな……行くぞ!」
アザマの号令の下、彼らのパーティーが神殿に向けて勢いよく走り出す。凄いスピードだ、追いつけない。神殿に近づいたところで、上空から声がする。
「そこまでだ!」
アザマや俺が目をやると、トレイルが翼を広げゆっくりと降り立ってきた。
「誰だ、てめえ?」
「僕は魔族の若きプリンス、トレイルだ!」
「あ? プリンス?」
「今、神殿内では魔王様復活の為の大事な儀式を行っている! 貴様らが何を企んでいるかは知らんがここから先は通さんぞ!」
トレイルが剣を構える。アザマが呆れた目で見つめる。
「全部、自分で言ってんじゃねえか……その大事な儀式とやらを邪魔しに来たんだよ」
「な、なんと⁉」
「そんな驚くな、大体予想はつくだろうが……」
「う、うむむ……」
「大体、その大事な儀式に立ち会わずにここにいるってお前、本当に魔族のプリンスか? 自称なんじゃねえの? だとしたら大分痛い奴だな」
「き、貴様、僕を愚弄するか!」
「シンプルに馬鹿にしてんだよ……まあいいや、さっさと片付けるぞ!」
「メガオーク四天王! 奴らを迎え撃て!」
「!」
トレイルの呼びかけに応じ、普通のオークよりも大きいオークが五体、その場に現れた。正直圧倒されるほどの大きさだ。トレイルが得意気に笑う。
「ふははっ! この巨体を前にして恐怖で声も出まい!」
「……呆れて声も出ねえんだよ、四天王とか言って、五体いるじゃねえか」
「はっ⁉」
「これ以上馬鹿の相手はしてらんねえ……エレッツオ!」
「おう!」
アザマの指示に従い、Sランク戦士エレッツオがメガオークの一体の腕を掴んで宙に持ち上げ、間髪入れずに叩き付ける。メガオークは動かなくなる。
「レイトゥ!」
「裁きの雷……」
AAAランク僧侶レイトゥが眼鏡を抑えながら呪文を唱えると、凄まじい雷がメガオークに落ちて、その巨体を一瞬で黒焦げにする。
「キコハ!」
「ケルベロス、餌の時間だよ……」
AAランク獣使いキコハが、気怠そうに鞭を振るうと、その場に大きな双頭犬、ケルベロスが現れ、メガオークに噛み付き、その太い首を食いちぎる。
「なっ……」
トレイルが唖然とする。アザマは欠伸をしながら告げる。
「まさか、こいつらが切り札だったのか? 拍子抜けもいいとこだな……」
「くっ、怯むな、かかれ!」
「グ、グオオオッ!」
「えっ⁉」
「ば、馬鹿! そっちじゃない!」
なんと、残った二体のメガオークはアザマたちにようやく追いついた俺たちの方に向かってきた。アザマが腹を抱えて笑う。
「はははっ! こいつは傑作だ! 弱い奴らを嗅ぎ分けるのは得意らしい!」
「くっ!」
俺たちは慌てて構えを取る。アザマが嘲笑気味に声を掛けてくる。
「雑魚二匹くらい譲ってやるよ、精々死なないようにな!」
そう言って、アザマはトレイルに向き直る。
「喜べ、プリンスのてめえは俺が直々に手を下してやる!」
「ぬ!」
「死ね! ―――何⁉」
トレイルに斬りかかろうとしたアザマの体が突如動かなくなる。
「こ、これは……? お前ら! 俺を助け……⁉」
アザマの他にエレッツオら三人も動けなくなっていた。
「……少し焦ったぞ」
トレイルが自らの方に歩み寄ってきたアリンに声を掛ける。
「……もっとマシなモンスターを用意すれば済むこと……」
驚くアザマたちの方に振り返ったアリンはフードを取る。彼女の頭にはトレイルによく似た、太く折れ曲がった青色の角が生えていた。
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