第11話(4)亜人の意地

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第11話(4)亜人の意地

「僕……俺たちはこの南の塔担当だね……張り切っていこう!」 「ガキが何一丁前に仕切ってんだよ……」 「ひっ……」  シバに睨み付けられ、ケビンが思わずソフィアの影に隠れる。 「……躾のなっていない猫ちゃんですわね……」 「誰が猫だ! どこからどう見てもライオンだろうが!」 「やめろ……」  ソフィアの後ろからグラハムが睨みをきかせる。 「シバ、落ち着け」 「ちっ……」  ニサがシバを宥める。空からアルフォンが降りてくる。ニサが尋ねる。 「どうだった?」 「上の階層も障壁魔法でしっかり覆われているな……情報通り、正面突破しかなさそうだ」  アルフォンが肩を竦める。シバが歩き出す。 「ふん、分かりやすくて良いじゃねえか」 「あ! い、今、『ボイジャー』と『人間上等』の二チームが塔の内部に入っていこうとしていくところに間に合いました! が、頑張って下さい!」 「あの女の人は確か……?」 「ヌーブさんというリポーターさんね、彼女たちは各塔の情報中継役を担っているわ」  ケビンの問いにソフィアが答える。 「危険な役割だが……彼女たちにとっては国の存亡に関わる事態だからな」  グラハムが淡々と話す。シバが呟く。 「この国が無くなったら、俺たちにとっても都合が悪いからな……」 「ほう? どういうことだ?」 「なんでもねえよ……行くぞ!」  グラハムの問いには答えず、シバが扉を破る。塔の内部は黒い人影が多数ひしめいている。 「な、なんだ⁉」  ケビンが驚く。ソフィアが冷静に説明する。 「人の生命力を吸収したことによって出来上がった影……ハサンさんという方の情報によると、この塔の警備兵のようなものだそうよ」 「倒しても問題はないという話だったな、ソフィア?」 「ええ、グラハムさん。ケビン、私の後ろに隠れていて」 「よっしゃあ! 暴れまくってやるぜ!」  シバたちが影の群れに突っ込んでいく。 「遅いぜ! 空を飛ぶまでもねえ!」 「これくらいの相手なら陸の上でも問題ねえ!」  獣人シバの拳、鳥人アルフォンの爪、魚人ニサの牙が黒い影たちを蹂躙する。 「す、凄い……」  シバたちの戦いぶりを見て、ケビンが感嘆とする。ソフィアが呟く。 「大会ではほとんど良いところが無かったから、その鬱憤が溜まっていたのでしょうね」 「「「おおい⁉」」」  三人がソフィアを睨み付けるが、ソフィアは全く意に介さない。 「ふん! ……こちらも片付いたぞ」  グラハムが両手をパンパンと払う。ソフィアが頷く。 「それでは上の階に向かいましょう」  ソフィアが皆を階段へと促して、六人が階段を上っていく。そして、いくつかの階層を経て、多数の影を撃波し、一番上の階層までたどり着く。ケビンが呟く。 「こ、ここが最上階みたいだね……」 「ふん、ここまでたどり着くとはな……一応褒めてやるか」 「誰だ⁉」  部屋の奥から黄土色の皮膚のトカゲの様な顔をした二足歩行の生物が現れる。 「誰だとはご挨拶だな……」 「トカゲの爬虫類人か?」 「トカゲだと? 俺は恐竜人族のコッキューだ、下位互換と間違えるな」 「きょ、恐竜人族だと⁉」 「ほう、絶滅したかと思っていたが……」  シバが驚き、アルフォンが顎に手をやって呟く。コッキューが笑う。 「お前らの物差しで測るなよ……俺たちが簡単に絶滅してたまるか」 「な、なんだって八闘士に?」 「種族の優秀さを示すことが出来るって話がきてな……面白そうだと思ってよ」  ニサの問いにコッキューが答える。ソフィアが重ねて問う。 「話がきたって……誰からですか?」 「俺が会ったのは『古の八闘士専門のスカウトマン』だな」 「ス、スカウトマン?」 「もらった名刺にはそう書いてあったぜ」 「め、名刺? どういうものなのですか、八闘士とは?」 「細かいことはどうでもいいだろう……そら、かかってこいよ。軽く叩き潰してやる」  コッキューは長い爪が伸びた手の指をクイクイっと折り曲げる。 「軽くだと⁉ ナメんなよ!」  シバが勢いよく飛びかかる。 「遅えよ!」 「がはっ⁉」  シバがコッキューの拳によって叩きつけられる。すかさずニサが背後から迫る。 「隙有り!」 「甘えよ!」 「どはっ⁉」  コッキューは長い尻尾を器用に使い、ニサの体を弾き飛ばす。 「空からならどうだ!」 「こういうことも……出来るぜ!」 「のわっ⁉」  コッキューが地面を思いきり踏み付け、割れた床を蹴り飛ばして、アルフォンの体にぶつける。思わぬ攻撃を喰らったアルフォンは地上に落下する。 「ふん、大したことはねえな……」 「く、くそ! 俺が相手だ!」 「ケビン⁉」  ケビンがソフィアの制止を振り切って無謀にも突っ込む。コッキューがため息をつく。 「おいおい、弱いものいじめをさせてくれるなよ……!」 「ぐわっ⁉」  コッキューが地面の小石を拾い、指で軽くはじく。鋭い弾丸のように飛んだ小石が、ケビンの額に当たり、ケビンはうずくまる。ソフィアが激昂する。 「! このトカゲ! かわいい弟ちゃんに何をしてくれとんのじゃ!」 「うおっ⁉」  ソフィアの鋭い蹴りがコッキューの顔面を捉える。コッキューはのけ反る。 「もう一丁じゃ!」 「ふん!」 「なっ⁉」  ソフィアが続け様に蹴りを繰り出すが、コッキューが防御する。 「人間如きが舐めた真似を……痛い目みてもらうぜ!」 「むう!」 「グ、グラハムさん!」  コッキューが腕を振るい爪でソフィアを引き裂こうとしたが、グラハムが間に割って入り、背中でその攻撃を受ける。 「お、お前たち姉弟は俺が守る……」 「ちっ、面倒だ、獣人ども同様、お前らも黙らせてやる!」 「がおっ!」 「む⁉」  立ち上がったシバが爪を振るい、コッキューの体に傷を付ける。シバが笑う。 「はっ、黙った覚えは無えぞ?」 「しぶといな……てめえらがなんで人間どもに肩入れする?」 「上から目線の奴が気に食わねえだけだよ!」 「うざってえな!」 「がはっ!」  飛びかかったシバをコッキューは殴り飛ばす。 「……たかがライオンの獣人が、かつてこの地上を征服した種族の血を引く俺に勝てるわけがねえだろうが……!」 「地上ね……これならどうよ!」 「ああ⁉」  ニサが両手から大量の水を出し、辺り一面が海のようになる。 「そらっ!」 「ぐっ! は、離れろ!」  水に足を取られ、思うように動けないコッキューの膝にニサが噛み付き、動きを封じる。 「急な流れだが……俺なら乗りこなせる!」  コッキューが砕いた床の破片を舟代わりにして、グラハムが手でこぎ、コッキューに接近する。その破片に乗ったソフィアが三度鋭い蹴りを繰り出す。 「舐めるな!」  コッキューが腕でガードする。ソフィアがふっと笑う。 「舐めているのはそちらでしょ?」 「なんだと⁉ はっ⁉」  コッキューが視線を上に向けると、アルフォンに体を掴まれたケビンが迫る。 「やったれ! ガキ!」 「うおおおっ!」  アルフォンの急加速に乗ったケビンのキックが炸裂し、コッキューは派手に吹き飛ばされ、塔の壁にめり込む。塔に空いた穴から水が勢いよく漏れ出す。 「た、倒した……」  水が引いた地面に降りたケビンは力が抜けたようにへたり込む。ソフィアが駆け寄る。 「ああ、ケビン! 大丈夫だった⁉」 「どあっ! お姉ちゃ……姉さん、抱き付かないでよ、恥ずかしい!」  ケビンの言葉を無視し、ソフィアはケビンの頭を撫でる。グラハムがシバに尋ねる。 「この国が無くなったら都合が悪いと言っていたな、どういう意味だ?」 「……鳥獣や魚介類の密猟・密漁について訴えるつもりだったからな、訴える場所が無くなっちまったら話にならない……人間どもとはあくまでも対等でなくちゃならない」 「ふむ……意外と考えているのだな」 「うるせえな、意外とか言うんじゃねえよ……」  シバは苦笑を浮かべながら地面に寝転がる。
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