第12話(2)尻に力を込める

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第12話(2)尻に力を込める

「この東の塔は我々が担当ということだな」  塔を見上げながら、ラティウスは腕を組んで呟く。 「ウホウホウホ?」 「フランソワ? う~ん、確かにそれも面白いかもしれないな。がっはっはっは!」  ラティウスはフランソワの肩に手を置き、豪快な笑い声を上げる。 「ラティウス=カウィー卿! そちらで勝手に盛り上がってもらっては困る!」  セリーヌが頭を片手で抑えながら注意する。ラティウスは申し訳なさそうに頭を下げる。 「い、いやいやこれは申し訳ない……」 「フランソワ嬢からなにか提案があったのならば検討したいのだが……」 「ああ、塔攻略が一段落したら二人の新居はタワー型でも良いのではないかという話だよ」 「は?」  セリーヌが固まる。ラティウスが口を開く。 「つまり作戦には一切関係が無い!」 「関係のあることを話して頂きたい!」 「分かった! 以後気をつけよう!」 「……全く、話の分かる方だと思っていたのに……む? ウヌカルか、どうだった?」  ウヌカルはテュロンをちょこんと肩に乗せて戻ってくる。 「大きくなったテュロンで一気に塔の外壁を駆け上がろうとしたが……無理だった」 「やはり周囲には強力な障壁魔法を張り巡らせているのか……」 「作戦というほどのものでは無いかもしれんが……」 「奇遇だな、サムライ、俺にも一つ考えがあってよ……」  モンジュウロウとガルシアがほぼ同時に喋り出す。セリーヌは渋い表情を浮かべる。 「……一応ご両人のお考えを聞こうか」 「塔ごと斬ってみるというのはどうだろう?」 「塔ごと倒してみるっていうのはどうだ?」  二人の答えにセリーヌは両手で頭を抱えてしゃがみ込む。モンジュウロウが心配する。 「どうした、セリーヌ? 頭でも痛いのか?」 「~~お陰さまでな!」  セリーヌが勢いよく立ち上がり、モンジュウロウが困惑する。 「げ、元気そうだな……」 「塔の周囲からの攻撃はなかなか困難だ、他の地点からの情報通り、正面突破しかないな」  ラティウスが話をまとめ、セリーヌはそれに頷き賛同する。ウヌカルとフランソワが呟く。 「では塔に向かうとするか」 「ウホッ!」 「おおっと⁉ 『剛腕』、『武士と戦士と騎士』の二チームが塔に入るところに間に合いました! 皆さんどうぞお気をつけて!」 「なんだ、あのやかましい青髪の姉ちゃんは?」 「聞いてなかったのか? 彼女はシャクさん。リポーターの四人がああして各地の情報伝達役を担っていてくれるのだよ。頭の下がる思いだ」 「そういえばそんなことも言っていたか……」  ラティウスの説明にガルシアは納得する。ウヌカルが叫ぶ。 「突入するぞ! む! こいつらは⁉」  塔の内部に入るとウヌカルが驚く。内部は黒い人影が多数ひしめいていたからである。」 「人の生命力を吸収したことによって出来上がった影……ハサン氏の情報によると、この塔の警備兵のようなものだそうだ」  セリーヌが冷静に説明する。モンジュウロウが問う。 「セリーヌ、こやつら、斬っても構わぬのだな?」 「ああ、派手にやってくれ」 「はっ!」  モンジュウロウが剣を振るうと、斬られた影は次々と霧消していく。 「おらあっ!」 「ウホホホッ!」  ガルシアとフランソワもたくましい腕を振るい、影を消し飛ばしていく。 「……この階層は大丈夫だな、上に向かおう」  セリーヌが他の五人を促して、皆で階段を上っていく。そして、いくつかの階層を経て、多数の影を撃波し、一番上の階層までたどり着く。ウヌカルが呟く。 「ここが……最上階層か?」 「ほお……私のところに来てくれたか、歓迎するよ」 「誰だ⁉」  ウヌカルが短刀を構える。部屋の奥から、大分傷んではいるが、それなりに立派な装飾が施された甲冑を身に付けた骨だけの騎士が現れる。セリーヌが驚く。 「が、骸骨⁉」 「こう言っては失礼に当たることは承知しているのだが……貴殿は死んでいるのか?」 「ふむ……自分でもよく分からないのが正直なところかな。骨が鎧を纏っているという奇妙な状況であることは自覚しているが、こうして立って歩くことが出来ているのだからね」  ラティウスの問いに骸骨騎士は首を傾げる。モンジュウロウが口を開く。 「其方、名はなんと申す?」 「スプリトだ、記憶なんてものはほぼ抜け落ちているが、それだけは忘れていない」 「スプリト殿……我らは塔を制圧しなくてはならない。その為には……」 「古の八闘士である私を倒す必要があるのだろう?」 「! やはり其方が古の八闘士……」 「ははっ、どうやらそうなってしまったらしい」  スプリトが右手に持った剣を見つめ、顎をカタカタと鳴らして笑う。ウヌカルが首を捻る。 「そうなってしまったらしい?」 「もう何十年前か、はたまた何百年前か……前任者の八闘士は私が打倒した」 「なんと……!」  ラティウスが驚きの声を上げる。 「微かな記憶を辿れば、何人か仲間もいたかな……その仲間も一人二人と失って、気付いたら私一人でなんとかその闘士を倒した……その際に呪いでもかけられたか、それとも私自身が妄執にでも囚われたのか、以来この姿で塔の番人のようなことをしている」 「むう……」  モンジュウロウが黙り込む。 「まあ、君たちには関係ない……戦おうじゃないか、退屈しのぎになってくれるかな?」 「あん⁉ なめんなよ! ……ぐはっ!」  ガルシアが猛然と突っ込むがスプリトが持ち出した槍で腹部を突かれ、うずくまる。 「野生的なタイプか、容易に接近させてはならない。間合いを詰められる前にこの槍で……刃が欠けている、これではただの棒だな。とはいえ、急所は突けたはずだ」  スプリトが槍の柄を撫でながら、自嘲気味に笑う。フランソワが飛び込む。 「ウホホホッ!」 「野生的というか……野生そのものだな、ゴリラという動物か、力には力だ!」 「ウホ! ……ウホッ!」  スプリトが床に転がっていた棍棒を拾い、フランソワの脳天を思い切り叩く。強烈な一撃を喰らい、フランソワは倒れ込む。ラティウスが激昂する。 「フランソワ! おのれ!」 「ぐっ! 図体のわりに素早いな! おっと!」 「なっ⁉」  ラティウスがスプリトの懐に入り、その剛腕を振るう。鋭いパンチだったが、スプリトは背中に背負っていた盾で防いでみせる。スプリトが反撃に出る。 「はっ!」 「がはっ……!」  スプリトの拳が顎に入り、ラティウスは崩れ落ちる。スプリトが冷静に呟く。 「速度、威力、さらに鬼気迫るものが感じられた……それ故、反応しやすくもあったがね」 「隙あり!」  セリーヌが鋭い出足でスプリトに迫る。 「踏み込みが甘い!」 「ぐわっ⁉」 「良い鎧だ、壊すのが勿体ないほどだな……」  スプリトは腰に下げていた斧を思い切り振るい、セリーヌの鎧にヒビが入るほどの一撃を浴びせる。堪らずバランスを崩したセリーヌは仰向けに倒れ込む。 「テュロン!」 「キュイ!」  ウヌカルは巨大化したテュロンに跨って、上に舞い上がる。 「それっ!」 「キュイイ⁉」  スプリトは慌てず騒がず、弓を構え、素早く射る。矢がテュロンの脚を正確に貫き、テュロンはあえなく落下する。受け身を取ったウヌカルはテュロンに声をかける。 「テュロン! 大丈夫か⁉」 「少し可哀想だが、機動力を封じさせてもらった……君も少し大人しくしてもらおう!」 「ふんぬっ!」 「モ、モンジュウロウ!」  ウヌカルの方に向けて放たれた矢をモンジュウロウが刀で斬る。スプリトが感心する。 「ほう……カタナか? 東方にいるサムライという戦士か……」 「実力者をことごとく退けるとは……相手にとって不足はない!」 「ふむ、かかってくるか!」  スプリトが腰に下げた鞘から剣を取り出す。モンジュウロウが斬りかかる。 「はああっ!」 「剣筋は悪くないが、まだ甘いな!」 「ちっ! ならば!」  モンジュウロウが裸足になり、両足の指にも刀を持たせる。 「む! 二刀どころか四刀か! 面白いな!」  スプリトが世にも珍しい四刀流にも難なく対応してみせる。 「ひゃらばきょれだ!」 「は、半裸に⁉ 骨だけの私が言うのもなんだが、血迷ったか⁉」  モンジュウロウが褌姿になり、口に刀を加える。 「ひょうきだ!」 「刀が一本増えたところで! はあ! がはっ!」  スプリトが剣を下から上に薙ぐと、モンジュウロウは受け止め切れず、後方に倒れ込んだかと思われたが、もう一本の刀がスプリトを斬った。モンジュウロウは一回転して着地する。 「ひょ、ひょうだ!」 「バ、バカな……カタナをもう一本尻に挟んでいただと……」  スプリトが倒れ込む。ウヌカルとセリーヌが覗き込む。 「テュロンを見ても全く動じないとは……同胞か? いや、まさかな……」 「この鎧は古いものだが騎士団に支給されるものによく似ているな、もしや……」  二人は半裸のモンジュウロウをなるべく見ないようにして、考えを巡らす。
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