第12話(3)奥義を使わないわけにはいかない

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第12話(3)奥義を使わないわけにはいかない

「この北東の塔が俺らの担当っスね!」 「近くで見ると大きな塔だで~」 「なんか宝物とかないっスかね?」 「少しでも持ち帰れたらいい商売が出来そうだで」 「よ~し、いっちょやったるか!」  ウンガンと言葉をかわし、ゲンシンが気勢を上げる。ソウリュウが呆れる。 「お前らは金の話ばかりだな……」 「ソウリュウはお金の大事さを分かってないだで」 「そうそう、稼げるときに稼いでおかないと!」 「商人はいいとして、坊主がそのようなことを言い出すとは世も末だな……」  ソウリュウが苦笑する。 「とにかく早く行こうっス!」 「分かったから少し落ち着け……来たか」 「お待たせいたしましたわ」  セーヴィが上空から降りてくる。ソウリュウが声をかける。 「斥候、ご苦労だったな。褒めてつかわす」 「は⁉ 天界から降り立った“氷の魔女”を捕まえて、その上から目線の物言い……」 「天界だかなんだか知らんが……一応労ってやっただろう」 「労って……や、やった?」  セーヴィが唖然とする。ウェスが尋ねる。 「ひとまずそれはいい……どうだった?」 「……情報の通り、塔全体が障壁魔法に覆われていますわ。外からの破壊は難しいですわね」 「あちゃ~楽は出来ないか~」  アズが苦笑する。ウンガンがソウリュウに確認する。 「ソウリュウ、やはり……」 「うむ、予定通り正面から突破だな……」 「よし! “光の悪魔”が派手に暴れるよ~」 「この“炎の死神”が通った先には草木一本残らん……」  アズとウェスの背中を見てゲンシンが笑う。 「いや~悪魔とか死神とか、俺らもああいう時代があったっスね~」 「ふっ、子供の頃の話だろう……」  ゲンシンとソウリュウの会話にセーヴィが割って入る。 「貴方がたも信じておりませんの? わたくしたちはれっきとした天界から来た者ですわ」 「ならばこんなところで遊んでいないで、さっさと天界に帰ればいいのではないか?」  ソウリュウが上を指差す。セーヴィが肩を竦める。 「それが出来ないからこうしてわざわざ塔攻略に赴いているのです」 「こちらでは『龍と虎と鳳凰』、『天界』の二チームが塔に入ろうとしています。健闘をお祈りしております……」 「あの黒髪美人は確か……リポーターのマールさんだったかな?」 「ええ、各地への情報伝達の役割を担って下さるそうですわ」  ウンガンの疑問にセーヴィが答える。ソウリュウが呟く。 「それもまた、ご苦労な話だな……」 「よし行くぞ! 我に続け!」 「オッケー、ウェスちん、皆もテンション上げて行こう~♪」 「調子が狂うな……」  アズの気楽な雰囲気にソウリュウは軽く頭を抑える。ウェスが扉を破る。 「それ! む⁉」  塔の内部に入るとウェスが驚く。内部は黒い影が多数蠢いていたからである。 「人の生命力を吸収したことによって出来上がった黒い人影……ハサンなる方からの情報によると、この塔の警備兵のようなものだそうですわ」  セーヴィが冷静に説明する。ウェスが問う。 「セーヴィ、こやつらは倒しても構わぬのだな?」 「どうぞ、好き放題暴れて下さいな」 「はあっ!」  ウェスが鎌を振るうと、斬られた影は次々と霧消していく。 「そーれ!」 「!」  アズが両手を振りかざすと雷光が周囲に迸る。セーヴィが慌てて声を上げる。 「ア、アズ! 好き放題と言っても限度があります! もっと周りを見て下さい!」 「へへっ、メンゴメンゴ」 「全く……」  セーヴィが頭を抱える横でウンガンとゲンシンも次々と影を消し飛ばしていく。 「……ふむ、この階層は片付いたな、上に向かうとしよう」  ソウリュウが他の五人を促して、六人で階段を上っていく。そして、いくつかの階層を経て、幾多の影を撃波し、一番上の階層までたどり着く。ゲンシンが呟く。 「ここが最上階かな? 誰もいないみたいっスけど……うん?」  ゲンシンが部屋の中央にある黄金色に輝くランプを見つける。ソウリュウが呟く。 「金色のランプ? 嫌な予感が……」 「おお~お宝発見っス! はるばる西の国まで来たかいがあったっスね~」  ゲンシンが駆け寄り、ランプを手に取る。 「……ごしごしっとこすって頂戴……レッツ、ゴシゴシ!」 「おおっ! どこからともなく声が! これはもしかして天のお告げって奴っスか?」 「ま、待て! ゲンシン!」  ソウリュウの制止も聞かず、ゲンシンはランプをゴシゴシこすってしまう。 「ふははは! ご苦労さん!」 「どわっ⁉」  ランプから巨体で褐色の女性が出現し、ゲンシンを殴り飛ばす。ウェスが叫ぶ。 「だ、誰だ⁉」 「アタシは“ランプの魔女”ディオンヌさ!」 「魔女だと言っているぞ、知り合いか?」 「いいえ! あの禍々しいオーラ、きっと魔界の者でしょう……」 「天界だ魔界だとなにやら忙しいな……」  セーヴィの答えにソウリュウは軽く額を抑える。ウェスが呟く。 「まさか魔界の者とこんな場所で相見えるとはな……」 「う~ん? 気に食わない気配だね~? 天界の連中かい?」  ディオンヌが周りを見回し、ウェスたちを確認する。セーヴィが尋ねる。 「何故貴女がここに?」 「ふん、魔界の暮らしにも飽きてね……こっちの世界にちょっと遊びに来たんだよ……そうしたら『古の八闘士』って良い遊び場があるって聞いてね……」 「ちょっと待て! 遊び感覚か⁉」  驚くソウリュウをよそに、セーヴィが質問を続ける。 「それがどうしてまたランプの中に?」 「せっかく塔の番人として立ちはだかるんだ……ただ待ち構えて、『よく来たね』ではいまひとつ演出が弱いって話になってね……アタシもそれはもっともだと思って……」 「演出が弱いって誰の意見だ⁉」  ソウリュウが声を上げる。セーヴィが頷く。 「まあ、気持ちは分からないでもないですわね……どうもこの世界の者たちは我々と接しても驚き具合が足りないように思いますから」 「変なところで共感するな!」  ソウリュウが叫ぶ。ディオンヌが再び口を開く。 「ところがランプに入ってみたは良いが、出られなくなってしまってね……いや~参ったよ、自分の魔力で自分を封印してしまったんだから……ぶははは!」 「馬鹿なのか⁉」  高笑いするディオンヌにソウリュウが戸惑う。 「まあ、こうして出られたんだ。仕事をしようかね……」 「喰らえ!」 「ふん! 『魔力脚』!」 「がはっ⁉」  ウェスが飛び上がって鎌を鋭く振るうが、ディオンヌがそれよりも速く蹴りを操り出し、ウェスを壁に向かって吹き飛ばす。アズが叫ぶ。 「ウェスちん! 仇は取るよ!」 「か、勝手に殺すな……」 「雷光をお見舞いしてあげる! えっ⁉」 「無駄口叩く前にさっさと出せば良かったんだよ! 『魔力拳』!」 「ぐっ⁉」  ディオンヌが素早く間合いを詰め、アズを地面に叩き付ける。セーヴィが呟く。 「圧倒的な魔力……を帯びた拳と蹴り……脅威ですわ」 「それは魔力の意味があるのか⁉」  ソウリュウが首を傾げる。セーヴィが銃を構え、即座に撃つ。 「氷の弾丸で動きを封じますわ! なっ⁉」  セーヴィは唖然とする。数発放った弾丸がディオンヌの手前で燃え尽きたからである。 「こっちは地獄の業火を幾度となく浴びてきているんだ、体内に溜まったそれを放出すれば、そんな氷の欠片なんてわけないね……」 「くっ……まさかの相性最悪な相手が二度続くとは……」  セーヴィが悔しさに唇を噛む。ウンガンが突如走り出す。 「は! ひょっとしたら、ひょっとするだで!」 「ウンガン⁉」  ウンガンが落ちていたランプを拾い、ディオンヌに向けて蓋を開ける。 「どわっ⁉」  強い衝撃波がランプから噴き出し、それを受けたディオンヌの巨体のバランスが崩れる。 「思った通りだで! かなりの魔力がランプに残っていた!」 「やるな! ウンガン!」 「『商機』と『勝機』は逃すなって親父にはよく言われていただで!」 「良い教えだ! 一気に決めるぞ! ウンガン! ゲンシン! お前らの火をよこせ!」 「ちょ、ちょっとお待ちを! 貴方たちは皆、火属性でしょう⁉ 相手には通じませんわ!」 「余の野望の火、地獄の業火ごときで覆い尽くせるか!」 「おでの願望の火も同じだで! 世界一の商人になるんだで!」 「俺の欲望の火も一緒っス! 大金稼いで女の子と死ぬまで豪遊したいっス!」 「一人邪な望みを持つ者がいませんこと⁉」 「この奥義を使わないわけにはいかない『龍虎鳳凰拳』!」 「がはあっ!」  ソウリュウたちの合体攻撃を喰らい、ディオンヌは倒れ込み、ソウリュウたちも倒れる。 「業火すらものともせぬ龍と虎と鳳凰の合体技……下界でこんな技を見られるとは……」  セーヴィは感嘆としながら、仲良く並んで倒れるソウリュウたちを見つめる。
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