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 その記憶の出来事を「彼女」に正確に伝えることができたかはわからない。ただ、気づけば、「彼女」の事をどこまでもまっすぐに見つめ、その両の手すら握りながら、止まらなくなった涙とともに感動と感謝を伝え続ける僕がいたんだ。最初こそ驚いたふうにしていたけれど、やがて、ふっと微笑むようにした「彼女」は腰を上げ、膝を折るようにしたポーズと共に、僕のことをふわりと抱き寄せると、急に強烈となった「彼女」の芳香には、驚きとともに石像みたくなったのは僕だったが、あとはいつものように、慣れたふうに手が伸び、僕の髪など撫で始めると、 「わかってる……わかってるからね」 「…………!」  少し吐息がかった囁きが、そんなふうに言うものだから、未だかつて体験したこともない優しさのなか、思わず僕が見上げると、いつしかも見つめ返したその美貌は、窓から射し込む夕映えをも照らし返せば、まるで聖母でもあるかのような神々しさすら感じる笑みでもって、僕を見下ろしていて、 「……君のことは、わかってるから」  語りかけながら、僕の額の上を、相手の爪先が小躍りするようにしたようだ。その笑みは先ほどよりも幾分かは茶目っ気もあっただろうか。ただ、もう、ここまでの愛情に対し、僕が返せる選択肢などそれほど多くはないだろう。 (…………!)  気づけば、まるで、世界で一番大事な宝物を見つけたかのような心持ちと共に、僕らは、まだ慣れない、ぎこちないキスを交わし合うのだった。それはまるで、遠い、遠い世界へと誘うまどろみのようで、実際、目を瞑る僕の視界は暗闇のはずなのに、目の前の「彼女」の体の熱さを感じ取りつつのそのひと時は、万華鏡のなかにいるかのような錯覚にとらわれるというものだった。  唇が離れる頃、「彼女」は再び、僕を抱きしめ、夢現に僕は目を瞑りっぱなしだったが、ふと、「彼女」は囁いた。 「クリスマスも……仲良しでいようネ」 (…………)  生まれてこの方、サンタクロースというものには縁のない人生だった。だから、クリスマスというものをどんなふうに過ごしていいのかはわからない。けれど、それは「彼女」となら、きっと素敵な一日になりそうだ。 「うんっ」  そしてまっすぐに「彼女」のことを見上げ、強く頷く僕と、それを見下ろす瞳は少しトロンと潤んでいただろうか。  ただ、「あっ、そうだ」となにかを思い出した「彼女」が一際に強く抱きしめてきやがった後、そこから解放された時には、異次元の感触に正に違う世界へと本当に旅立ってしまいそうな僕だったけれど、準備されたプレゼントの包みすら手渡されようとした時には、またもや、生まれてはじめての涙が僕の頬をつたったということは言うまでもない。 そして、その後、クリスマスを恋人と過ごすこともはじめて経験する僕が、そのタイトルも「クリスマス」という、曲の尺が6分もある大作の歌を作り出すことになるのだけれど、それには、二人の時間が、もう少し経過してからの話なのだ。
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