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赤い月
無限に張り巡らされた有刺鉄線
出口は見えない
上空には無限のヘリが飛び交い
スナイパーがライフルの銃口をこちらに向けている
風が吹き荒れ
乾いた頬を砂がなでる
そんな妄想を抱きながら
人混みの中歩くと
尖った悪意と無関心に体を切り刻まれ
僕はカミナリが落ちた木の断面ように
ズタズタに裂けてしまう
なるべく丸くなり自分を守る
傷つかないためには
これが一番いい
しかし、ずっと丸くなっていくと
やがて僕の心は空っぽとなり
心身共に感覚が鈍くなっていくのだ
かといって、決して透明にはなれない
図々しくも、確かに存在してしまう自分を
鬱陶しく思う
現実と妄想が
バーテンが振るシェイカーの中で
カクテルのように混じり合い
境界線が曖昧になっていく
この世界に確かなのものなどなく
僕は無性に不安になる
その不安は底なしで
音もなくひたすら落ちていく
血管を束にして
体から引き抜いて
電柱に結びつけたい
そんな事を考えていたら
空に赤い月が上っていた
それはとても綺麗で
それはとても恐ろしく
それは母の胎内のように暖かく
全ての終焉のようにも思えた
両腕で体を強く抱きしめる
するとスルッと腕が体をすり抜けて
僕の体は真っ二つに分かれてしまった
薄れゆく意識の中
ただただグレープフルーツをかじりたいと
思う自分がいた
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