凡庸の異常

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そうこうするうちに8月27日。 初めて呼び出しを受けた。店長に電話でだ。 いつもの通り筋トレの映像を見ながら体を絞っていたらから電話に驚いた。 『話したいことがあるから明日の13時にこれるかな』 「はい。土曜なのでなんとかいけます」 『では失礼しますね』  ピッとあっけなく電話は切れる。これで忙しくなるのも知れない。できるだけ体を作っておこう。 ☆☆☆  翌日の土曜日。 「話したいことはね、君は来月から東京秋葉原所属になってもらう」 「ちょっ……遠くないですか?」 「一応出世ってことになるのだよ。往復の交通費は出るし、2~5時間の間の勤務ということにさせてほしい。もちろんテスト期間の調整もしよう。まああまり稼ぎすぎても困るようだし」  有難すぎる条件だ。遠くなったとしてもぼろぼろに疲れることはないだろう。 「確かにそうですが」 「こうなった経緯だが、君たち親子は有能でね。店舗収益が1.5倍になっているのだ」 「はぁ」  いまいち業績云々がわからないが、オヤジも頑張っていることが評価された結果のようだ。 「ちなみに君の親父さんは、来月からここ執事カフェの副店長になってもらう」  オヤジは塾講師兼アルバイトだったはず。 「え?」  よほど待遇がよかったのだろうか。 「君にはアルバイトではない社員見習いとしての登用だ。時給は1700円。まぁ高校生だから待遇はアルバイトと思ってもらっていい。親子で同じ店舗はちょっと遠慮してもらいたくってね」  契約書類を見てみると、秋葉原本部となっている。 「本部?」 「そうだ。君は将来性があるから本部への移動だ。来年になったら存分に発揮してくれたまえ」  どさりと渡された資料は会社所属に関するもの。 重要と書かれている資料もある。 「これは?」 「君は基本は出来ているけれども一応、社会人としてのたしなみを覚えておくといい。来年役に立つだろう」  これを持って帰るのかとげっそりする。 (まぁ、厚意っぽし有難く持って借りますか) 「僕のことは承知いたしました。父はご迷惑おかけしていないでしょうか?」 「迷惑どころできないさ。あの年で爺やというキャラクターポジションを確立したんだ。今後は各店舗に一人くらい爺やポジションに成れる男性を置くことを検討しているよ。オヤジさんは熟年の女性と10代の女子大生からの人気があるようだね。」 「それはよかったです。」  今年はゆっくり休んで下さい。 「はい」 とは答えたものの、明らかに破格の待遇。 今までのバイトの経歴をサーチ欄に放り込んでみよう。 スマホでエゴサする。 紳士的。声が好き。などの評判はいい。
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