第四章 緑川麗奈

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 食事を終えたわたしはレジカウンターでお会計を済ませた。 「ありがとうございました。あ、そうだ。お食事を召し上がって頂いたお客様にプレゼントがあります」  店員さんはそう言って透明のラッピング袋に入っている星形のきらきら輝くアイシングクッキーを差し出した。 「ありがとうございます」 「いえいえ。ほんのささやかな気持ちです」  微笑を浮かべている店員さんの唇はきらきらと赤色に輝いていた。  わたしは受け取ったクッキーをもう一度見た。とても綺麗な星形のクッキーなんだけれど何かモヤモヤするものがわたしの体の中に渦巻いた。この嫌な感情はなんだろうか? 「お客様どうかされましたか?」 「あ、いえ……綺麗なクッキーですね」 「うふふ、ありがとうございます」  店員さんの綺麗な笑顔を眺めているとこの嫌な気持ちは気のせいだったんだと思った。だってこの星形のクッキーは夜空に輝く星に似て綺麗なのだから。  わたしは顔を上げ、店員さんに挨拶をして帰ろうとしたその時何気なくレジカウンターに目がいった。するとレジカウンターの上に『さや荘へようこそ。素敵なお部屋があなたを待ってます』と書かれたチラシが置かれていた。  素敵なお部屋があなたを待っています。わたしを素敵なお部屋が待ってくれているんだ。さや荘へようこそ。わたしはさや荘に惹かれていた。 「あの店員さん……」 「はい、何でしょうか?」 「わたし、このさや荘に住んでみたいです。まだお部屋は空いていますか?」  わたしの口はとんでもないことを口走っていた。 「もちろん空いていますよ。さや荘がお客様を待っていますよ」  店員さんの表情は喜びに輝いていた。
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