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「この説は、平日に心の安定をもたらす。木曜日の幸福度が格段に上がる。そして、その木曜日は、更なる理論へと僕を導いた。……なんだと思う?」
「な、何?」
尼崎くんは、至極嬉しそうな顔で微笑んだ。
「それは、水曜日の幸福についてさ」
「…………はぁ?」
心の底から出た声だった。
「水曜日には、“明日は、木曜日。落ち着いて前夜の喜びを味わえる日だ”という喜びを味わうことができるんだ!」
殴ってやろうかと思った。
「同様にして、火曜日は水曜日の喜びを楽しみに過ごせる。そして……なんとあの月曜日までもが、火曜日という前前前前夜の喜びを味わう前夜となる!!」
頭痛がしてきた。彼を止める気力も残っていない。
「僕達はついに月曜日の呪縛から解放されるんだ!月曜日に勝利した!“全ての夜は、全ての日の前夜である”。絶望なんて存在しないんだ!……どう?この、前夜前夜理論」
尼崎くんは、めちゃくちゃむかつく上目遣いで再び口角を上げる。
「す、すごく良いと思う」
そう言わざるを得なかった。そんな私の気遣いなんて知らずに、尼崎くんは満足げにコーヒーを飲み干す。
「それで、何が言いたかったのかって言うと……」
コーヒーカップを置くと、急に尼崎くんの顔が赤らんだ。
「今から君と別れたとしても、次に会う日まで毎晩が前夜なんだ。だから僕は、生きていける」
私はようやく、この一連の流れが彼にとって愛の告白だったのだと気づいた。
「……それは名案だね」
途端に彼のことが愛らしくなって、私は堪えきれずに笑った。
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